鎌倉新書という会社をご存知だろうか。これは出版社名ではなく、主にマッチングプラットフォームのポータルサイトを運営しているIT企業の会社名である。実は祖業は出版社から始まったものの、今ではその比率はごくわずかになり、その事業のほとんどがネットで葬儀や仏壇、お墓などの情報を提供しているサービスである。
同社は、高齢化がますます進展する日本において、昨今よく耳にする「終活」という取り組みをサポートするようなサービスの提供を行っており、これから更に終活が当たり前になる時代に、だれもが鎌倉新書をイメージ(想起)するというビジョンを掲げている。今回はそのような普段あまり接点がない領域ではあるものの、会社として右肩上がりに成長している鎌倉新書の内側に迫っていきたい。
鎌倉新書とは
冒頭にもお伝えしたように、鎌倉新書は1984年に当初は仏壇仏具業界向け書籍の出版を目的に現会長の父にあたる創業者、清水憲二氏によって設立。売上高約32億、営業利益約8億、社員数166名(アルバイト含む)、資本金約10億と非常に利益率が高く、キャッシュリッチな会社である。その後、2000年にネットビジネスに進出し、お葬儀に関するマナーの情報や葬儀社情報などの検索が可能なサイトを開始、2015年に東証マザーズへ上場、その後2017年には東証1部への市場変更をしている。
後ほど詳細に確認するが、現時点での主要なウェブサービスとしては、「葬儀・お葬式」、「お墓・霊園・墓石」、「仏壇・仏具」、「相続・保険・不動産」、「介護・終活」の5つのセグメントがあり、それぞれでサイトを運営しており、合計で32のサイトがある。その他に書籍出版事業や自治体支援事業、セミナー・コンサルティング事業などがあり、いわばライフエンディング業界における価格.comのような企業である。
直近の業績
上の図の通り、今期の決算に関してはコロナウイルスの影響もあり、売上高は約22億(前年同期比−4.2%)、営業利益は約5,000万(前年同期比−90.0%)で、なんとか黒字を保った状態である。売上に関しては、コロナの影響でイベントの自粛ムードの高まりや葬儀自体の簡素化、小規模化という形で影響が出ている。営業利益に関しては、原価、販管費が前年同期に比べそれぞれ約2.5億、約1.5億とコストが増加したため、今期は非常に薄利の状態になった。
主力4事業の内訳としては、上の図の通り、相続事業が非常に好調に推移している。相続事業の内容としては、葬儀を終えた遺族の方が行う「遺品整理」「相続財産の調査、確定」などの様々な対応を、同社が専門家の紹介や書類作成・提出の代行を行うなどのサービスを提供している。
ライフエンディング市場
参照元:成長可能性に関する説明資料
ラライフエンディング市場は、おおまかに葬儀市場で約1兆6000億円、法事や法要、仏壇などの周辺市場を含めると約2兆3700億円の規模であり、上の図によると同社のサービスを利用する主に40~60歳代の方はITリテラシーが高くなりつつある世代でもあるので、鎌倉新書にとってはここから更なる成長が期待できる。また、ライフスタイルの多様化による周辺ニーズの更なる拡大も見込めるのではないだろうか。
2020年の新成人の数は約122万人で、新生児の数は約85万人であり、ご存知のように日本の総人口は今後も減少の一途をたどる中、死亡者数は2040まで増加し続けると予想されている。また、昨今の健康意識の高まりや医療の進歩により、高齢化とともに健康年齢も高まりつつあり、そのような観点でもまだまだ市場の拡大余地は大いにあると考えられる。
ビジネスモデル
参照元:有価証券報告書-第36期
同社のビジネスモデルとしては、上の図にあるように、お墓・葬儀・仏壇などを探しているユーザーを自社のサイトを介して葬儀社、仏壇仏具店、石材店、寺院霊園などに送客することでその報酬(手数料)を得る、リードジェネレーション(送客)型のビジネスモデルである。加えて、多少の広告掲載料があることが分かる。そのため、同社の重要な指標としては、まずはいかにサイトのより多くのユーザーを集客できるかであり、次にそのユーザーが成約に至るような各種サポートを行うことが重要である。
このようなオンラインでのマッチングを行うプラットフォームビジネスでは、売り手と買い手の情報の非対称性が明確に出やすい業界が有効であると考えられる。また、同様のサービスを提供する売り手が多い場合に、基本的には思考としては比較をするものであるので、その比較情報がわかりやすく手に入るサイトは、買い手にとっては魅力的である。
ただ、気になっているのが、直近話題になっている消費者庁の動きである。国民生活センターの報告では、ここ数年ネット広告関連のトラブル相談が相次いでおり、昨年はなんと8万6,000件と過去最多の相談が寄せられている。そのような中で、同庁は大規模な実態調査に乗り出し、今後新たなガイドラインの策定や規制強化なども視野に動きを進めてく方針である。
同社だけではなく、送客モデルで事業収益の大半が構成されているような企業は、これからリスク分散のための新たな取り組みや送客モデル自体の見直しも進めていかなければならなくなるだろう。
今後の成長戦略
同社の今後の成長戦略、成長可能性として以下の3つを挙げているのでそれぞれ詳しくみていく。
・外部環境の追い風
・新サービスの拡大
・既存サービスの最大化
外部環境の追い風
まず、こちらに関しては同社の戦略というよりも、属しているライフエンディング業界が追い風であるということだ。冒頭にもお伝えしたように国内の高齢化はかなり進んでおり、単純に市場規模及び今後の成長性が見込める。また、同社のサイトを利用するユーザーは当然ながら高齢者が多く、比較的ネット利用率が低いことは容易に想像ができ、昨今の術的な進歩や高齢者への浸透もこれからますます広がることで、今後の開拓余地が非常に大きくなる。
新サービスの拡大
在展開している既存事業の周辺領域への進出を計画しており、成長ポテンシャルの大きい供養の周辺領域などを想定している。既に、直近では不動産や保険、介護などのサービスを立ち上げている。また、これまでの検索エンジンからの流入だけではなく、日本郵便などの大手とのアライアンスやセミナーなどから新たな顧客流入の拡大を図る。
既存サービスの最大化
生前準備からお墓の購入までライフエンディング全域をほぼすべてカバーしたサイト展開を進めており、各サイトにおけるこれまでの顧客情報を一元化し、適切な情報の集約、整理、共有が可能な体制構築を行い、より効率的にクロスセルの取り組みを増大させ、LTVの最大化を図る。
総括
今回、特に若い方であれば全く考えもしないであろう「終活」という領域のリーディングカンパニー的存在である鎌倉新書を紐解いていった。会社名からはIT企業であることを感じさせない会社ではあるが、今後拡大が見込める市場において着実に成長を続け非常に収益力があり、今後ますます期待ができる企業であった。同業他社で競合的存在はまだそこまで明確にはないと思われるため、今後は同市場におけるベンチャー的存在が現れる可能性も十分あり、今後の業界全体の動きから目が離せない。