WebFolioはおすすめのWebサービスや面白いWebサービスを解説するメディアだ。
そして筆者は、面白いサービスで起業し、世界を変えようとしている若者だ。
さて今回の記事である。
終了したサービスを振り返るという内容である。
日々新しいWebサービスが登場する一方で、面白いWebサービスは古いサービスとなり、そして終了する。
2015年から更新が始まったWebFolioで取り上げたサービスにも、2025年の今はもう終了しているものがある。
そもそもWeb業界は変化が激しく、Webサービスは10年続くものはそうないのだ。
終了は必ずしも失敗とは限らない。
先人のサービスの事例から、これからの時代で面白いサービスを考えるための学びを得たい。
温故知新である。
またあくまで、筆者なりに終了した原因を考察するものであるため、もし読者の方が何か知っていたらぜひ教えてほしい。
競合との違いを出せなかったイベントン
「イベントン」は福岡の開発会社オリナスによってリリースされたイベント管理プラットフォームだ。
福岡には国産のプロジェクト管理ツールBacklogを提供し、上場も果たしたヌーラボが本社を構え、ITスターチアップの集積地にもなりつつある。
オリナスのイベントンも、ヌーラボのBacklogのように、国産ならではの圧倒的な使いやすさによって日本市場で違いを見せられるかというところだったが..。
以下表を見てほしい。これは、国内の主要なイベント管理プラットフォームサービスだ。
サービス名 | サービス開始年月 | 主な機能 | 対象イベント・ターゲット | 料金体系 |
---|---|---|---|---|
こくちーず | 2007年頃 | イベント告知、参加受付、チケット販売 | 地域密着型・小規模コミュニティイベント | 基本無料(手数料型)、オプションあり |
Peatix | 2011年頃 | イベント告知、参加受付、チケット販売、決済、リマインド、アンケート等 | エンタメ、ビジネス、コミュニティなど幅広い | 無料イベントは無料、有料は手数料型 |
connpass | 2011年頃 | イベント告知、参加受付、参加者管理 | IT・技術系コミュニティイベント中心 | 基本無料(一部オプションあり) |
Doorkeeper | 2012年頃 | イベント告知、参加受付、チケット発行 | コミュニティ・ミートアップ全般 | 基本無料、プレミアムプランあり |
EventRegist | 2012年頃 | イベント告知、参加受付、チケット販売、参加者管理、フォローアップ | 企業向けセミナー、展示会、フォーマルなイベント | 無料プランもあり、機能拡張で有料プランあり |
イベントン | 2014年頃 | イベント告知、参加受付、チケット販売、決済、参加者管理 | 中小規模~多様なイベント | 無料プランと有料プランを提供 |
everevo | 2015年頃 | イベント告知、参加受付、チケット販売、決済、参加者管理 | 低コストでのイベント開催を目指す企業 | チケット販売手数料のみ(低価格設定) |
イベントクリエイト | 2016年頃 | イベント告知、申込フォーム作成、参加者名簿の自動生成、メール配信等 | セミナー・展示会などの効率化を目指す企業 | 問い合わせ |
Q-PASS | 2017年頃 | 申込フォーム作成、QRコードによる受付、オンライン配信 | オンラインとオフラインを統合したハイブリッドイベント向け | 問い合わせ |
Event Cloud Mix | 2018年頃 | イベント全体の管理機能(参加受付、管理、セキュリティ対策等) | 大規模イベントや展示会 | 問い合わせ |
イベントンが機能上大きく劣るわけではないと思うが、なかなか違いが出にくいのがわかるだろう。
イベント管理プラットフォームは主催者側が管理画面のUXでどのサービスを使うかを選ぶというよりも、どのようなユーザーを対象にするかという参加者側の属性によって決まる印象である。たとえば、気軽なイベントならば昔からあった「こくちーず」、意識高めのイベントは「Peatix」、IT系は「connpass」などだ。
イベントンの場合は、”ユーザーにとってはどんなイベントのプラットフォームなのか?”という点が、中途半端になってしまったのではないだろうか。
Hitch meは早すぎた
「Hitch me」はドライバーとヒッチハイカー(パッセンジャー)をマッチングさせるWebサービスだった。
白タク行為にならないようにサービス設計の工夫もされていたようだ。
Hitch meの代表である小俣隼人氏は、以下のように語っていた。
シェアリングエコノミーが進化を遂げる中で、自動車の空席を最大限に活用することに注目しました」と語ります。高騰するガソリン代や、都市での渋滞問題を解決するには、無駄な空席をなくしていくことが必要です。また、無駄な CO2 排出を減少させることも目指しています。単なる移動ではなく、誰かと楽しい時間を共有することができるサービスを通して、ドライブがより充実したものになることを期待しています。
たしかに「運転中の車の助手席」も眠っていた資産だった。
Hitch me自体は、おそらく法律の問題で手数料形式での課金ができなかったことや、ユーザー間トラブル対策・解消の運用負荷で、収益化が難しかったのだと思う。
しかし、「飲食店で偶然相席になってしまう」という設定の「相席屋」同様に、”出会い系”としての機能での収益を模索する道もあったのではと個人的には考える。
ちなみにモノのシェアリングエコノミーは、何を眠っている資産と捉えるかを基点にサービスが作られる。
「止まっている車」を眠っている資産と捉えたのが個人間カーシェア。
「使っていない家電」を眠っている資産と捉えたのが家電レンタルだ。
Hitch meは無駄なCO2排出を減少させるとともに、パッセンジャーから得る対価を寄付できるシステムも導入していたようで、まさに売り手・買い手・世間(環境と社会)良しの”三方良し”のシェアリングエコノミーであったように感じる。今の時代でこういったものを何か作れないか考えたい。
WELQショックで沈んだキュレーションSpotligt
ネット上で提供される医療情報の信頼性や、SEO対策を重視した低コスト大量生産型コンテンツの問題点を浮き彫りにし、オンラインメディアの情報管理や監修体制の在り方が再検討されるきっかけとなった、Web業界では誰もが知る事件の余波は大きかった。
WELQショックとは
「WELQショック」とは、DeNAが運営していた健康情報キュレーションサイト「WELQ」において、医療や健康に関する情報の正確性や信頼性が著しく問題視された一連の騒動を指す。
当初、WELQは多くの健康・医療情報を手軽に提供することを目指していたが、記事の多くが医療専門家による監修を受けずに作成されたため、誤った情報や根拠の薄い内容が広く流布され、検索エンジン上位に表示される事態が発生した。これにより、実際に医療現場で混乱が生じる可能性があるとして、医師や薬剤師などの専門家、そして一般ユーザーから大きな批判が巻き起こった。
その後、DeNAがサイトを非公開にするなど、改善策に踏み切ることとなった。
キュレーションサイトとは
キュレーションサイトとは、インターネット上にあふれる多様な情報の中から、特定のテーマや分野に関連する記事やコンテンツを読みやすくまとめて編集したサイトのことである。
そもそもキュレーションとは、博物館や美術館などの学術施設で、専門的な知見に基づいて資料を収集することである。
しかし、2016年当時のWebの世界におけるキュレーションとは、忙しい読み手に代わって「まとめサイト」を作ることのようになっていた。「まとめ」と言いつつも、盗用に当たる行為や出典不明、不正確な情報で溢れていたのだ。
WELQショックの余波
DeNAはサイトを非公開化し、第三者委員会の調査を受けることにもなった。
そしてGoogleのアルゴリズムも変化することとなった。YMYLがより重要視されるようになったのだ。
情報精度に問題のあるキュレーションサイトを運営していたのはDeNAだけではなかった。
サイバーエージェントやリクルートといった大手企業から、個人ブロガーまで、軒並みキュレーションサイト運営から撤退することとなった。
サイバーエージェントの「by.S」
リクルートの「ギャザリー」
DeNAの「CAFY」
当時DeNAは、「DeNA Palette」と名付けたプロジェクトを打ち立てていた。同時に10のキュレーションメディアを運営しながら、検索結果を所謂”ハック”することを狙っていた。
Spotligtはひと味ちがう結末になった
Spotligtも盗用の問題でサービスを終了せざるを得なくなった。
しかし、その後2025年現在まで続くサイバーエージェントの人気メディア「新R25」に統合されることとなった。
怪我の功名と言えるかもしれないが、当時メディアを運営していたノウハウそのものは、正しい情報発信に向ければ素晴らしいWebサービスづくりに活かせるのだということだ。
譲渡後に何があったのか?STARted
以下はSTARted事業を譲受したCAMPFIRE社の構想の図解だ。

STARtedのUXはこの動画を見てほしい。
2016年12月15日に、CAMPFIRE社がSTARtedの事業譲受のうえ、事業の創始者である藤井裕二氏がCAMPFIRE社の執行役員となった。
その時点でSTARtedの累計利用者数は3000人、年間市場流通額は1億円超、提携工場数は400にのぼっていたようだ。
UXからもわかるくらいPMFしており、ユーザーもいるので、CAMPFIRE社のリソースでじっくりと収益化まで育てられると思われたのだが..。
結局なぜ終了したのかはわからない。大資本グループに入ったことで、高い水準の目標が求められるようになり、そこからの経営判断によるものなのかもしれない。
DeNAの傘下に入ったiemoと、DeNAの執行役員となった村田マリ氏の事例を思い出した。
村田氏はiemoでIPOを目指すよりも、事業会社による投資や買収を受け入れた方が、iemoのサービスを高め、より多くのユーザーに利用されることにつながるのではないかと考え、DeNA入りした。
実際にiemoはDeNAに買収されてからトラフィックが急成長したものの、執行役員となった村田氏は当時DeNA代表だった守安氏が掲げた数値目標を相当高い水準にあると思っていた。
達成のために邁進した結果、先に解説したWELQショックの一因となり、サイトを閉鎖せざるを得なくなった。
STARtedがどのような経過を辿ったのかについては憶測となる。
藤井氏の2020年末のブログに、「事業を売ったり、ちょっとだけ某社の執行役員やったり」と書かれている。
生成AIが普及している昨今、このようなサービスが進化して出てくると思っている。
藤井氏はきっと既に仕込んでいる。
その他、事業譲渡後に終了していたサービスには以下のようなものがある。
PR TIMESに譲渡後サービス終了した「U-NOTE」
リヴァンプに譲渡後サービス終了した「bemool」
ノースグラフィックに譲渡後サービス終了した「イケメン店員MAP」
Donutsに譲渡後サービス終了した「ソーシャルランチ」
グローバルウェイに譲渡後サービス終了した「CoffeeMeeting」
リンクアンドモチベーションに譲渡後サービス終了した「Oneteam」
ゴチソーのマネタイズは難しかった
“ソーシャルリサーチプラットフォーム”という概念で始まった「ゴチソー」は、まさに面白いWebサービスだ。
ただ、プラットフォーマーにお金を払うのかという点で、今ひとつ企業が掲載する動機づけにはならなかったのかもしれない。
既に紹介した「イベントン」他、イベント管理ツール(無料のもの多数)で”ランチおごるのでインタビューさせてください”的なイベントを作って募集すれば同じであるためだ。
ゴチソーには、たとえば特定の層に向けたターゲティングメールで集客できるといった機能があれば差別化できたと考えられる。
ビジネスイベント配信サービス「ビズスタ」の強みの源泉が、イベントが並ぶポータルサイトではなく、メルマガによる集客ができることにあるのと同じだ。
とはいえゴチソーについては終了してしまったサービスそれ自体よりも、アイデアをいち早くサービス化したことに価値があったと考えられる。
2025年現在でも、企業とユーザー双方が気軽に利用できそうな対面型のソーシャルリサーチサービスはあまり見当たらない。
uniiリサーチは近い気がするが、ビザスクをカジュアルにしたような印象だ。こういったものの方が時流に合っているのかもしれない。
あとひとつ足りなかったWoman&Crowd
こちらは2017年1月31日にサービス終了した、Woman&Crowdの最後の決算公告である。
9,300万円の赤字決算となった。
クラウドソーシングのビジネスは、仕事を発注するクライアントと仕事を行うユーザーを両方集める必要がある。
Woman&Crowdの場合は、Amebaのプラットフォームがある状態でこのドメインに参入したわけなので、ユーザー獲得面ではかなり有利に思えた。
さらに、クライアントも延べ3,600社あったようである。
それでは、なぜ赤字になったのか?
思うに「仕事とユーザーのマッチ率」に課題があったのではないだろうか。
いくらリモートワークをやってみたい主婦ユーザーをAmebaのプラットフォーム内で安価で獲得できていたとしても、すぐに収益化できるわけではない。
手数料ビジネスであるので、そもそもユーザーが仕事を受託できなければ、売上にならない。
クライアント側はWoman&Crowd以外のクラウドソーシングも使っているはずで、主婦だからという理由では発注しないだろう。同じ仕事なら、ランサーズやクラウドワークスで一定の評価がついているユーザーに発注するはずだ。
おそらく、Woman&Crowd側としても、クライアントが求める水準のリモートワーカーは外部広告を使って獲得していたのではないだろうか。
サイバーエージェントはこういったビジネスで、「踏む」会社であるため、果敢に攻めたものの、最終的な仕事とのマッチングの部分で黒字化できなかったと考えられる。
また終了したのが2017年1月というのも、なぜ赤字になってしまったのかを解くヒントがあるかもしれない。
ここでも、本記事で何度も触れたWELQショックである。
キュレーションメディア運営とWoman&Crowdのリモートワーカーは非常に相性が良かったはずだ。
当時行われていたキュレーションメディアは、前述のように質より量でコンテンツを集めることが重視され、参入していた多くの企業にとって「キュレーションメディアのライター案件」は発注ニーズがあったと考えられる。
安価な案件とはいえ、ちりも積もればである。
それが、軒並み倒れる(Googleのアルゴリズム変更で検索結果に出なくなる)ことになったので、Woman&Crowdにとってはマッチしていた案件の数が減少したのではないだろうか。
クラウドソーシングのビジネスは、クライアントとユーザーのどちらか片方を囲い込んでいれば成立するように思われがちだ。これが飲食店や住宅や旅行などの、消費に関してならば「リボンモデル」として機能する。しかし、クラウドソーシングは働くことなので、第三の視点が必要であった。
リモートワークで働きたい主婦はたくさんいることは確かで、働きたいが働けていなかった人に場を与えることが意義深いのは確かであった。しかし、仕事の対価を支払う発注側のニーズは、どうしてもサイバーエージェントが得意とするWebサービス上のソリューションでは満たせなかったのかもしれない。
まとめ
Webサービスがうまくいくかどうかは、最後は運なのかもしれない。
事業はヒト・モノ・カネと言うが、大手資本に入って「カネ」のバックアップがあっても終了したサービスがある。
またPMFが大事と言うが、ユーザーがいてもマネタイズできずに終了したサービスがある。
「時好に投じた」キュレーションメディアも終了した。
筆者がVCの方から言われたことがある。
起業家は”顧客マニアになれ”ということだ。
優れたサービスを生み出すには、顧客に対する優れた”洞察”が必要である。
洞察を集めるためには、とにかく顧客に会いに行き、顧客が抱える事実を収集しなければならない。
今回の終了したサービスの事例から得られる示唆は、「顧客の解像度をいかに高めるか」の大切さではないだろうか。運を引き寄せるのはきっとここだ。
たとえば、「イベントン」は”イベントを開催する企業”と”イベントに参加するユーザー”両方を顧客と定義してサービスを作れば、違いを生み出せていたのかもしれない。
あるいは、「ゴチソー」は”食事を接点に企業の人に会えること”を顧客の主要な価値としてサービス提供すれば、別角度からのマネタイズができていたのかもしれない。採用の社長メシなどはそうだろう。
生産者とユーザーの接点創出のWebサービスとして捉えると、筆者イチオシの「タダヤサイ」は野菜を通じて農家とつながるという実にシンプルなものながら長く続いている。
とはいえ、終わってから評論家は何とでも言える。
未来はどうなるかわからないなかでWebサービスを作り上げるのは素晴らしいことである。
筆者も起業家として挑戦するつもりだ。まだ何も成し遂げていない。
Webサービスは起業家の思考の末に生まれた最終的なアウトプットに過ぎない。
起業とは過程であり、Webサービスを世に出し切った先輩たちに負けないよう、筆者も完走する。