筆者は、事前に予約してクレカ決済も完了していた夜行バスに乗り損ねてしまった。
バス停の場所がわからなかったのだ。
ちなみに、たどり着けなかったのは「仙台駅西口・広瀬通40番・宮交仙台高速バスセンター」だ。
なぜバス停の場所を事前に確認しておかなかったのかと悔やんだ。
翌朝までには絶対に東京に戻らないといけなかったが、新幹線はもう終電である。
そこで、ダメ元で、事前予約していなかったが目の前のバス停に泊まっていた東京方面行きの夜行バスに、今から乗れないか誘導の方に打診してみた。
結果、現金でその場で支払うことで、乗せていただくことができた。(空席があったため)
こうして明朝には帰ることができた筆者なのだ。
「高速バス予約サイトはなぜわかりにくいのか?」
「予約しても乗るバスがどのバスなのかわかりにくいのはなぜなのか?」
「そもそも今回、目の前のバスに交渉して乗れたように、いつでもその瞬間に空いているバスを教えてくれるサービスはないものなのか?」
と完全に自分のミスを他責にしつつ、バス予約サイトについて考えてみた。
日本の高速バス市場の現在
日本の高速バス市場は、近年、特に訪日外国人旅行客の増加や国内の移動需要の回復によって注目されている。
特に、訪日中国人旅行客の利用が大幅に増加しており、2025年の春節・春運期間中には前年同期比で約11倍に達したのだ。この増加は、団体旅行から個人旅行へのシフトによってもたらされている。
また高速バス「WILLER EXPRESS」によると、中国系の決済サービスを開始したことも一因のようだ。日本のバス市場全体としても、2024年に31億5,800万米ドルに達し、2025年から2033年にかけて年平均成長率1.2%で成長が見込まれている。
この市場の成長は、都市化の進展や環境問題への懸念が高まり、持続可能な交通手段としてのバスが注目されていることも関係されている。特に、電気バスや自動運転バスへの関心が高まっており、政府もこれらの技術の導入を促進するためのインセンティブを提供しているのだ。
高速バス予約サイトの仕組み
さて、そんな高速バスに乗るときにはどうするかというと、高速バス予約サイトを開くだろう。
日本の高速バス予約サイトの市場シェアは、楽天トラベルや高速バスドットコムなどの総合予約サイトが強みを持っているが、地域や路線に特化したサイトも多く存在する。
高速バス予約サイトは、公式予約サイト、外部の予約サイト(OTA)、および比較サイト(メタサーチ)に大別される。
公式予約サイトは、バス事業者が自社で運営するもので、業務用の座席管理システムと直結している。
一方、外部の予約サイトは、複数のバス会社と提携し、利用者に複数のバス会社から選べる体験を提供している。
筆者が、自分の乗るバスのバス停がわからなかったのは、複数のバス会社から選べるという利便性を筆者が使いこなせなかったからとも言える。
バス予約サイトの仕組み | 運営会社 | 座席の空き状況管理 |
---|---|---|
公式予約サイト | バス会社 | 自社の座席管理システムと連動 |
OTA | サイト運営会社 | APIや定期的なデータ更新 |
比較サイト | サイト運営会社 | メタサーチ(横断検索) |
「いつでもその瞬間に空いているバスを教えてくれるサービス」にもっとも近いのは自社の座席管理システムと完全連動している公式予約サイトと言えそうだ。
定期的にバス事業者から提供されるデータを更新して残席数を反映する場合は、どうしてもリアルタイム性には欠ける。提携バス会社がすべてAPI連携していることもそうないだろう。メタサーチも然りである。
高速バス予約サイトのビジネスモデル
1. 手数料収入
OTA(オンライン旅行会社)は、バス事業者から手数料を得ることで収益を上げている。利用者が予約する際、予約サイトがバス事業者から一定の手数料を受け取るのだ。例えば、楽天トラベルや高速バスドットコムは、バス会社と提携し、予約数に応じた手数料を得ている。
2. 広告収入
一部の予約サイトでは、ウェブサイト上での広告収入も得ている。特に、多くのユーザーが訪れる人気の予約サイトでは、バス選択画面に「PR枠」がある。
3. データ分析による収益
利用者の予約データを分析し、バス事業者に有益な情報を提供することで収益を得ているものも存在する。例えば、京王電鉄バスのSRSシステムは、ダイナミックプライシングを活用して需要に応じた運賃設定を行い、バス事業者の収益を増加させる手助けをしているのだ。
手数料収入が主な収益源となっているものの、データ分析による収益はユーザーからは見えない興味深いマネタイズポイントである。
高速バス予約サイトの使いにくさを考える
OTAや比較サイトを使ってバスチケットを予約したことがある人は、「高速バスの予約サイトって使いにくいな」と感じたことはないだろうか。
筆者も、サイト内で画面遷移が都度発生したり、やっぱり別の路線にしたくなったときにわざわざ検索エンジンから再度検索しないといけなくなったりと、煩わしさを感じていた。
たとえば、「バス比較ナビ」で予約しようとすると、「発車オーライネット」に遷移するのだ。


これはバス比較ナビがメタサーチサイトであるためだ。
複数の比較サイトから情報を取得して情報を掲載しているのだが、メタサーチのサイトでは予約までは進めらない。
別の予約サイトに遷移して手続きを進めることになる。
ちなみに、バス比較ナビはSEOが超強い。
「東京から〇〇 バス」と検索すると軒並み上位である。
Ahrefs計測の当サイトのドメイン評価は65ポイントであるのだが、これはバス会社のサイトや都道府県の観光協会のサイトのそれと遜色ない水準である。
被リンクされているサイトのドメインも強い。価格.com(84ポイント)、キナリノ(72ポイント・ちなみにこれも運営会社はカカクコム)などだ。
バス比較ナビなどのメタサーチで安いバスを調べたうえで、そのバス会社のサイトで予約するのが、結果的に煩わしくなくて楽なのかもしれない。
一方で、高速バスは他の交通手段がないときに、急いで探すものであるとも言える。
そんなニーズに応えるには複数のバスを一括検索し、まずは「バスがあるのかどうか」という情報をユーザーに届けるUXであるべきだ。
となると、高速バスサイトは、予約できることよりも、探せることに重きをおいてサービスが磨かれた結果が今日のサイトの姿なのかなあとも思うところだ。
高速バス予約サイト成功の鍵:どう差別化するか?
高速バス予約サイトが事業としてうまくいくかどうかは、いずれの収益モデルを軸とするにせよやはりユーザーを獲得できるかどうかにかかっているだろう。
SEOやSNSの集客戦略、予約導線を簡単にしたりリアルタイムで空席情報を提供するなどUXで生み出せる違いが、ユーザーを獲得できる差別化である。
特に、もしリアルタイムで空席情報を提供することに特化していたサイトがあれば、あの瞬間の筆者を獲得できていたはずだ。
どの予約サイトも仕組みそのものは似通っているだけに、微妙な差異が勝負を分けるとも言える。
こういったレッドオーシャンな業界のWebサービスこそ、長く続いているものから学べることは多く、あればUXが良くなるのにと思いつく機能がなぜ実装されていないのかを考えるうえでも、良い教材になる。