昨今の世の中は情報過多と言われるほど、昔とは比べものにならないくらいより多くのモノを見聞きしている時代である。昔は今ほど高度でかつスピーディーに技術進歩があった訳ではなく、ある程度質の良い商品・サービスを開発できればその商品・サービスが売れていた時代であり、その出来上がったモノを世の中へ告知する手段としても、テレビ、新聞、雑誌、ラジオなどのいわゆる大手マスメディアに限られており、この4大メディアが多大な影響力を持っていた。
つまり、ひと昔前までは、優れた商品・サービスもそこまで多くなく、それをPRする手段も限られており、そしてそのPRの影響は絶大な力を持っていたため、一度良い商品を作り、メディアで告知すればモノは非常によく売れた時代であった。
ただ、これが2000年頃から普及し始めたインターネットというものにより、人々が容易に世の中の情報へアクセスできるようになり、国内ではmixiやアメブロ、海外ではTwitterやfacebookというサービスが出始め、個々人が受信だけではなく発信することも出来る時代になった。これは2010年頃のスマホの普及、iPhoneの普及によりその流れは加速し、更に最近のInstagramやYouTubeの広がりを受けて、情報は「マス」から「パーソナル」なものになっていっている。
そのような現代では、単純に良い商品・サービスを開発できれば売れるという時代ではなく、商品・サービスはある程度良いことは前提の上で、どれだけちゃんと「伝えられるか」そしてそれを受けて、人々にどう「行動してもらうか」が重要な時代になっていると思う。
このような背景がある中で、今回は今や上場企業をはじめ4万社が利用する現代の代表的なPR会社が右肩上がりに成長している理由、仕組みを探っていきたい。
目次
PR TIMESとは
2005年、現在一部上場、国内最大規模のPR会社であるベクトルの子会社として設立。当時、インターネットを介して企業広報とメディアをマッチングさせるサービスとして立ち上げられた「キジネタコム」というサービスがうまくいかず、改めてビジネスモデルやマネタイズの仕組み、コンセプトなどを練り直して作られたのが「PR TIMES」である。
2006年にベクトルのIPO責任者として携わった現PR TIMES代表の山口拓己氏が立ち上げた。
本来は、企業側がメディアを通じて、世の中、生活者に対して情報を伝える手段としてのプレスリリースというものが、従来はメディアが集まった情報を取捨選択する形しかなかったため、メディアに取り上げられず生活者に届かない情報も多くあったなかで、PR TIMESは、ウェブサイトを通じて自らがメディアの機能となることで、より多くの情報を生活者に届けるプラットフォームの役割を果たしている。
事業も成長を続けており、2016年3月に東証マザーズに上場、2018年8月には東証一部に市場変更を果たしている。
PR TIMESのビジネスモデル
同社のビジネスモデルは以下図のように、企業がプレスリリースを行う際にスポットまたは定額でお金がかかる仕組み。(一般的な)企業がお金を払ってまでプレスリリースを行う動機としては、PR TIMESを情報源としてテレビの企画を行うような記者/メディアに訴求するためだ。
参照元:成長可能性に関する説明資料
テレビ(メディア)に取り上げられた場合、莫大な価値を生む場合が多く、そういったことを夢見る企業がお金を落とす、というビジネスモデルになっている。「一般的な」企業と書いたのは、多くの中小企業の場合であって、周知されている大企業の場合は、主にステークホルダーへの周知として活用される。そのため「広報」「PR」という言葉は、企業規模によって内容が大きく異なる。
直近の業績
コロナの影響はあったものの、「マスク」「消毒液」「テレワーク」といったコロナ関連商品のプレスリリースもあり、売上高及び各利益項目においては、上期の過去最高を更新し、前半期比114.8%で上期業績予想も上振れしている。
ちなみに、販売管理費のコストの部分に関しては、全項目のうち内訳としては役員報酬、給与手当、広告宣伝費、支払手数料、減価償却費、賞与引当金繰入額、貸倒引当金繰入額があり、前年度下期では広告宣伝費がコストとして大きくなっていたが、今年度上期では前年度とほぼ同じ水準まで戻った状況である。
KPIの指標となる、利用企業社数、新規利用企業社数、プレスリリース件数、は軒並み右肩上がりの成長を続けており、新規サービスであるWebクリッピング、Jooto、Tayoriも順調に推移している。
具体的な事業内容
実はあまり認知されていないかもしれないが、PR TIMESは大きく以下4つの事業がある。
- PRプラットフォーム
- プロダクト
- メディア
- PRプランニング
PRプラットフォーム
PRプラットフォームの事業は、プレスリリース配信をしているメイン事業「PRTIMES」であるが、同じプラットフォーム事業にはもう一つ「PR TIMES STORY」というものがあり、これはサービスの開発秘話などの背景や裏話を当事者によって語られる、ストーリー形式の発信サービスである。
プロダクト事業
プロダクト事業は、先ほどご紹介したWebクリッピングやJootoなど、その他いくつかある自社サービスが6つある事業である。配信前後に必要になってくる効果測定やカスタマーサポート、動画配信やイベントカレンダーなどの周辺ツールがある。
メディア事業
メディア事業は、直近10月に完全子会社化したismという会社が運営していた情報サイトを中心に、合計8つの自社メディアの運営サービスである。
PRプランニング事業
PRプランニング事業は、プレスリリースする際にオプションとして行っているより効果的に波及させるためのPR戦略などの上流部分からより具体的な戦術企画立案、コンテンツの原稿作成など、PR全体をカバーしているサービスである。
Jootoについて
2017年にSkipforwardから事業買収したクラウド型タスク管理ツールであり、シンプルな操作でタスクの管理・共有が可能で、今現在ユーザー数は約23万名(前年同期比+29.4%)で、他のプロダクトに比べてもかなりの利用者数である。
最近、このようなシンプル操作、UI/UXに優れたいわゆるSaaS系の低価格サービスが非常に多く見られ、正直どの企業もぱっと見違いがわからず、既存取引先へのアップセルの場合はそこまで難しくないかもしれないが、アップセルが一旦落ち着いた段階での新規開拓営業は価格競争に巻き込まれたり、営業人員の工数がかかったりなど、継続した成長スピードでの拡大は難しいのではないかと思っているので、今後の同社の取り組みには注目したい。
PR TIMES TVについて
同年2017年に、2つの動画PRサービス「PR TIMES TV」と「PRTIMES LIVE」を開始しているが、この「動画」という部分に注目したい。
同社の決算資料にも記載があるが、プレスリリースの件数に関して、プレスリリースそのものは前年同期比で37.2%増、プレスリリースの素材に関して、画像は前年同期比35.7%増なのに対して、動画素材は前年同期比61.3%増と倍近い成長率である。
また、同社の記者・編集者185名への調査結果においても、約6割の方が業務内および情報収集の際に動画を視聴することが増えているとしている。
ご存知の通り、youtubeやTikTok、Instagramの台頭から分かる通り、映像、動画というものが人々を引きつけ、環境的にも5Gの普及も間近に控えていることもあり、今後ますます動画による発信というスタイルは増えていくのではないかと思う。
動画1分あたりの情報量は、一般にウェブページ3,600ページ分に相当すると言われており、より効率的な情報伝達が可能な上に、アメリカ国立訓練研究所が提唱している「ラーニングピラミッド」理論によれば、文字のみのテキストと比較して動画は記憶の定着率が約2倍ほど高いとも言われている。
PR TIMESの特徴と優位性
競合には、共同ピーアールやソーシャルワイヤー、プラップジャパンなどがあるが、その中で同社の強み、優位性としては、以下の3つであろう。
・12,000媒体超の配信及び19,000名超の編集者の会員で構築されたネットワーク外部性
・独立系では国内最大規模であるベクトルグループとの連携により、総合PR戦略の一機能として同社サービスを利用することで利用企業により包括的なサービス提供が可能
・上場企業42.68%が利用する国内シェアNo.1の実績による情報の信頼性
上記強みが合わさることで、更に顧客数が増え、配信数及び閲覧数が増え、それによりまた顧客数が増えるという好循環に入っていることが総合的な強みであると考える。
今後の成長戦略
今後の同社の成長戦略、強化施策としては大きく3つある。
- メディア連携パートナー強化
- 新たなサービス事業の更なる収益化
- 自社メディア運営事業の強化
メディア連携については、直近での立命館アジア太平洋大学と連携協定や地銀・信金との地方情報流通のための提携などにより、更なる提携パートナーの拡大を図っており、今後もその動きを拡げていく計画である。
新たなサービス事業の収益化については、先述した自社プロダクトやその他事業の更なるアップセルやクロスセルを推進していく計画であり、こちらについては既存取引先への導入についてはそこまで問題なく拡がっていくと思うが、この事業単独での新規開拓は厳しいと思うので、入り口はメインのプレスリリースで取引を始め、基本的にはアップセルやクロスセル中心での販売活動になると個人的には考えている。
自社メディア運営事業については、先述した通り8つの自社運営メディアサイトがあり、各サイトのコンテンツ制作体制の強化及びそれぞれのメディアのシナジー効果最大化に向けた取り組みの実施を計画している。
総括
今回は、昨今様々な場面で見聞きする、「いかに伝えるか」という時代におけるPRや告知の観点で認知度の高いPR TIMESを取り上げた。
今後ますます情報量は多くなる一方で、今の生活者がリユースやシェアリングを求め、そもそも消費をしなくなっていることを考えると、より生活者の求めているニーズに対して適切なものを、適切な形でしっかりと”伝える”ことがより重要になってきており、今後のその流れは変わらないだろうと思う。
その手法に関しても既に多様な方法があるが、変化の激しい現代においては常にその時その時で適切な訴求方法を模索していく姿勢が重要なのではないだろうか。