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ぐるなびの事業
株式会社ぐるなびの事業セグメントは「飲食店販促サービス」のみで、飲食店からの広告料や手数料が収入源となる。インターネットサイト『ぐるなび』を通した広告宣伝・予約サービスを提供し、契約した飲食店のページがぐるなび上で紹介されることになる。
その他にも『ぐるなび』上から得られたアクセスデータや消費者のトレンドを分析し、飲食店の売上向上を支えるプロモーション活動を行っていおり、あくまでも『ぐるなび』サイトに依存した収益構造をとっている。ちなみに2020年3月末の時点での有料加盟店舗数は約55,500店舗。
元々は交通広告代理店であるエヌケービーという会社の子会社が運営する飲食店のインターネットサイトとして1996年に誕生。その後子会社は『ぐるなび』の認知度拡大と共に、2000年に社名を株式会社ぐるなびに変更している。
インターネット黎明期に飲食店の紹介サイトを運営したため当初の競合はほぼ無く、2016年まで順調に成長を続けた。競合の『食べログ』は2005年のサービス開始でぐるなびが先手を打ってる状況。なお、エヌケービーの会長が社長を兼任する形をとっている。
決算書から見る近年の業績
2020年6月に公表されたぐるなびの決算書(通期)は下記の通りとなっている。
近年の売上高を見ると第28期(2016年4月~2017年3月)に370億円程度を記録して以降、362、327、309億円と年々減少し、当期純利益も第28期に48億円だったものが、直近の第31期では9.5億円程度にまで減少している。
そして、7月29日に公表された、2021年3月期の第1四半期(2020年4月~2020年6月)は営業利益が▲38億と、前年同期ですら0.8億と悪い状況の中、大きく赤字を出した状態。
これだけはっきりとした業績悪化はもちろん株価にも影響する。2016年に1株3010円という最高値を記録したが2020年7月現在では600円台にまで下落している。
2020年に入ってからはコロナウイルスによる影響も考えられるが、根本的なぐるなびの業績悪化は4つの原因があると決算書に記載されている。
- 消費者のネット予約・ポイントに対するニーズに対応が遅れたこと
- 消費者の情報収集手段の多様化への対応が遅れたこと
- ぐるなびサイトの送客力が低下したこと
- 飲食店が求めるサービスを提供できなかったこと
消費者のネット予約・ポイントに対するニーズに対応が遅れ
『ホットペッパーグルメ』が5.2万店舗と日本一を謳っているのに対しぐるなびは4万店舗弱。店舗当たりの収益が高い大手やチェーンを重視し、個人経営店の開拓を進めなかったことが背景にある。結果として予約可能店舗数が競合より少ない状況となった。
予約管理システムに関しても、店の空席状況をリアルタイムで管理しつつ、ネット予約に対応する、リアルタイム予約管理システムの導入が競合に比べて対応が遅れている印象がある。特に『ホットペッパーグルメ』は運営元がリクルートということもあり、強力な営業体制/資本体制の元、導入が進んだという背景がある。
消費者の情報収集手段の多様化への対応が遅れ
消費者がInstagramなどのSNSを通じて飲食店を探すようになったにも関わらず、SNSへの対応が遅れ、ぐるなびでのサービス提供に固執し続けていたと推測できる。
一応Instagramとの連携を取っているものの対策が遅れたのか、ほとんど効果が出ていないと言われている。飲食店の立場から考えた場合、売上高に対してぐるなびを通じた来客の割合が減少すれば、契約を続ける必要性がなくなる。
ぐるなびサイトの送客力が低下
上述した原因が複合的に影響して、サイトを閲覧した人が飲食店の売上に直結しなくなったことが考えられる。飲食店からぐるなびへの使用量はある程度予約数に影響するため、契約店舗数が同じでも予約が少なければぐるなびの収入は減少する。
従来からの競合『食べログ』の他に『Retty』や『ヒトサラ』などの競合が台頭してきたことも理由の一つと考えられる。
他にも『Googleマイビジネス』による影響も大きいと考えられる。数年前から検索エンジンの仕様が変更し、Googleで「居酒屋」と検索すると、検索者の地域の近くにある、Googleマイビジネスに掲載されている居酒屋が一番最初に表示されるようになった。(これによりSEO対策ではなくMEO対策と呼ばれる、Googleマイビジネス上で上位表示をする業者が増えた)
Googleマイビジネスのクチコミ・レビューは法律的に問題がある場合(著作権違反等)でないと、運営側(飲食店側)で簡単に削除できないので、悪いクチコミも忖度なく掲載されている。通常グルメサイトは食べログを含め、飲食店側からの収益がメインとなっているため、悪いクチコミは掲載しづらい側面がある。
2019年10月に、食べログの一覧ページでの並び順がお金を多く払っている飲食店が優先的に上位に表示されていた問題が発覚したように、飲食店側から収益を貰う構造は、消費者側に何かしらの不便をもたらしてしまう場合が多々ある。(不便とは、おすすめ一覧とあるのに実際は多額の広告費を払っている飲食店が上位表示されたり、悪いクチコミは一切表示されないといった不便)
その点、Googleマイビジネスは飲食店側からの収益を一切得ていないので、そういった問題が発生しないメリットがある。さらに2018年10月より予約管理システムを提供するようになったため、ぐるなびから直接予約する消費者が減ったのではと考えられる。
飲食店が求めるサービスを提供できなかった
上述した3つの原因は消費者に対するぐるなびのスタンスが影響しているが、「飲食店が求めるサービスを提供できなかったこと」に関しては飲食店へのアプローチが影響している。
ぐるなびのビジネスモデルは単純にぐるなびサイトに飲食店の情報を載せるだけで、極端に言えばホームページの整備だけで収入を得ていた。
しかしスマホ普及や情報の多様化といった消費性向の変化の中で、ぐるなびが持つデータを活用した飲食店の支援サービスを開発せず、飲食店にとっての契約するメリットが欠けていたため、新規の顧客が得られなかったのではないかと考えられる。
食べログとの違い
ぐるなびのライバルと言えば『食べログ』と言われているが、食べログ』の方は業績が順調。2017年3月期に186億円の売上高を記録し、2020年3月期は263億円となっている。
食べログの収益の種類を見ると、飲食店側が215億、消費者(ユーザ)が23億、広告収入が25億となっており、前年比で見ても消費者からの収益が大幅に減少し、飲食店側にシフトしていることがわかる。
ぐるなびはサービスを開始した年が早い分、売上高はまだ『食べログ』より高いが、近年の変化を見ていくと、ぐるなびの減少分が『食べログ』の方に流れている見方もできる。
『食べログ』が成長した背景には消費者参加型のメディアという点がある。『食べログ』の特徴は消費者が飲食店の点数をつけ、消費者がつけた点数がお店の評価となり、5点満点中3.5点以上のお店は良質なお店と言われている。ネット通販でも同様だが、近年の消費者は損をしたくないという気持ちが強く、レビューを元に商品・サービスを決める傾向がある。
ぐるなびでもクチコミ欄はあるものの、明らかな点数が表示される『食べログ』の方が消費者には魅力的と言える。また、SNSの普及で近年の消費者は発言したがる傾向にあり、点数をつけて意見が言える『食べログ』のプラットフォームがSNSに似ていることも消費者が集まる理由になったと考えられる。
ただ、上述したように2019年10月にクチコミの問題を受けてかどうかはわからないが、もともと飲食店側の収益の方が多かったものの、近年ではさらに飲食店側へのマネタイズにシフトしているのかもしれない。
【後編】なぜ食べログは公正取引委員会の調査を受けたのか? (1/4)
コロナによる影響
上述の通り、ここ数年の業績悪化は消費性向の変化に対応できず、競合にシェアを奪われたことが原因。しかし2020年3月期の第4四半期はコロナによる影響が生じている。通年の業績への影響は少ないが、今後の予測を決算説明会資料とともに解説していく。
ぐるなびと契約している店舗のうち約25%が休業や閉店を余儀なくされている。これらの店舗はコロナの感染拡大が生じた都市部の店舗が中心で、店舗数の9割が個人経営店です。売り上げ状況を確認すると、契約店舗の9割が前年に比べて売上が減少していると報告しており、その内の半数が50%以上の減少。こうしたコロナの影響はもちろんぐるなびの業績にも影響している。
有料加盟店舗数は2020年に入ってからの3ヵ月間で562店舗減少したが、4月には1500店舗以上減少するとみられ、収入への影響は甚大であることがわかる。なお決算報告資料が公表された5月時点でコロナ終息の見込みが見られず、業績への影響が不明であるため2021年3月期の通年業績予想は未定としている。
※追記※
2020年7月29日に2021年3月期の第1四半期(2020年4月~2020年6月)が発表されたが、営業利益で38億の赤字と、相当悲惨な状況になっている。
ぐるなびの今後
短期的な見通し
短期的な見通しを考える上で最も重要な点はやはりコロナの状況と言える。第2波の拡大による消費者の外出控えや政府・自治体による再度の自粛要請がされれば、ぐるなびの売上は減少していく。
コロナ禍において飲食店はテイクアウトやUber Eatsなどの配達サービスを導入することで、売上の減少幅を少しでも減らそうと努力を続けている状況。飲食店の業績による影響を直に受けるため、ぐるなびとしてはテイクアウトや配達サービスの普及に対応することが必須と言える。
直近の対策としては、ぐるなびサイトやアプリを通じてテイクアウト可能なお店を紹介する特集を組む動きが見られる。またコロナの状況によって頻繁に変わる営業時間の情報を迅速に伝えるような仕組みが作られている。
以上のようにコロナへの対策は取られているが、効果は限定的と言える。テイクアウトへの対策面では、競合の『食べログ』や『Retty』も同様の特集を組んでおり、Google検索で「テイクアウト」で検索すると『食べログ』が上位に表示される。
また、会社帰りなどでテイクアウトをする際もネットで検索するより駅前を歩いているときに見かけた店舗で買う人が多いため、飲食店にとってみればぐるなびを通じてテイクアウトを宣伝するメリットは薄い。配達サービスの面では、ぐるなびは対策を取っておらず、消費者も『Uber Eats』や『出前館』などのアプリから直接検索することが多いため、ぐるなびの出る幕は無さそう。
実はぐるなびは2004年に出前サービスの『ぐるなびデリバリー』を始めているが、2019年に終了しており、この点はもったいないと感じられる。
このように、短期的な見通しで言えば2021年3月期の業績はさらに悪化する可能性が高いと断定できる。なお、コロナ禍が終息した場合でもテイクアウトや配達が消費者の間で定着し、外食産業で以前のような消費活動が回復しなければ長期的にもぐるなびは厳しいと言える。
長期的な見通し
近年の業績悪化の打開策として株式会社ぐるなびは2018年から楽天との提携をはじめており、現在では株式の15%を楽天が保有している。今後はぐるなびを通じた予約の際の楽天ポイントの優遇など、楽天との関係を通じて送客力の回復を目指す方針。
例えば楽天IDでログインして飲食店を予約すると来店人数×100ポイントを獲得できるサービスや、会員限定のお得な情報が得られるサービスが提供されている。その他にも消費者のユーザーインタフェースの改善など、ぐるなびサイトの刷新を進め、消費者からのニーズに対応できるようにしていく予定とのこと。
以上が消費者側に立った改善案ですが、飲食店側に立った改善案も打ち出している。ぐるなびでは飲食店向けに『ぐるなび大学』というサービスを提供している。このサービスは主に個人経営店が対象だが、経営する上で重要な財務諸表の考え方や、忘年会などの繁忙期シーズンの対策を教えるセミナーを開催している。
また、『ぐるなび大学』のサービスを通じてぐるなびの持つビッグデータを活用できるメリットもある。なおコロナ禍ではセミナーを会場で開催するのではなく動画で配信していく予定。
近年の楽天の業績をみると売上高は上昇していますが利益率は減少しているため、ぐるなびの救済に本格的に取り組めないのではないかとも言われている。そして楽天との提携やサイトの刷新はあくまでもぐるなびサイトを中心とした独自メディアの改善に過ぎない。
レビューや口コミ、インスタ映えなど、他者の意見を参考に消費を決める近年の消費者を取り込むには他のSNSとの相溶性が高くなければならず、ぐるなびサイトはSNSとの相性が決して良いとは言えないメディア。
今後はぐるなび依存から脱却し新たなメディアの開発に賭けるか、SNSの情報やマーケティング分析を駆使したコンサル業務にシフトするしか道は残されていないと思われる。前述の『ぐるなび大学』はコンサル的な側面もあるが、現状ではセミナーや情報提供といった一方向のサービス。飲食店と共に問題解決する新しいサービスの整備が求められる。
総括
ぐるなびはそれまでに無かった飲食店の情報提供、予約サービスを展開する独自メディアを運営することで2016年まで成長し続けた。しかしそれ以降は消費者の情報収集媒体の多様化や口コミ・評価を重視する姿勢に対応できず、明らかな業績悪化をもたらしている。
そして更なる業績悪化が予想されるコロナ禍でも抜本的な打開策は打ち出せていない状況。ラーメン屋に例えるなら世の中のニーズや味の変化に全く対応せず、開店以来提供し続けたラーメンをそのままの味で出しているのと同じ行為。
ぐるなびの業績は独自メディア、独自商品に依存し続けることの危険性を教えてくれる。今後はラーメン屋を畳んでイタリアンを開業するような大転換が求められる。