インフルエンサーとは特定集団の中で影響力のある人物を指す。
YouTube、ニコニコ動画などのプラットフォームの他に、Twitter、Facebook、Instagram、SnapChatなど、様々なSNSが登場しており、それぞれの場で活躍しているインフルエンサーが存在する。
一昔前までは芸能人がアメブロを使って商品をPRするのが流行っていたが、情報発信の場がSNSに変わり、芸能人だけでなく一般の人達でも影響力を持つようになった。Youtubeだと「ヒカキン」や「はじめしゃちょー」などが有名だ。
インフルエンサー・マーケティングとは、影響力を持っているインフルエンサーに何らかの報酬を支払い、広告とわかるように明示した上で、商品をPR・拡散してもらうマーケティング方法。フォローしているユーザやチャンネル登録しているユーザに宣伝することができる。
今年の2月27日には吉本興業がインフルエンサー・マーケティング事業を開始すると発表しており、ここ最近の注目度の高さが伺える。
以下、Googleトレンドの検索クエリ
「インフルエンサー・マーケティング(以下、インフルエンサー広告)」というフレーズは、何かとても新しいマーケティング手法のように聞こえるが、本質的にはクチコミを活用したマーケティングと同じ。
「クチコミ・マーケティング」の一つに「バズ・マーケティング」があるが、これはインフルエンサーとは直接関与せずに、自然に情報が拡散する仕掛けを指す。企業側がエイプリルフールネタで拡散を狙ったりするのは「バズ・マーケティング」に当たる。
インフルエンサー広告の主な用途としては、自社の商材の写真を投稿してもらったり、イベントへ招待して体験談を投稿したもらったり、商品サンプルを郵送して感想を投稿してもらったりと、様々な手法がある。
このインフルエンサー広告に関して、注目されている背景や問題点など、色々と調査をしてみた。
インフルエンサー広告のメリット
信頼性が担保される
影響力を持った人の紹介なので、信頼性が担保される。「あの人が使っているから私も使おう」という心理が働き、購買意欲を向上させることができる。
従来の広告より細分化した、特定の人物にリーチできる
インフルエンサーは特定の趣味や知識に特化した人が多いため、フォロワー・ファンも、その分野に興味を持っている場合が多い。そういった層にインフルエンサーを通して間接的にリーチできるため、親和性が高い広告を打てる。
バナー広告のような広告感が少ない
昨今サイト上に自然に溶け込ませるネイティブアドが話題になっているが、インフルエンサー広告はPRマークを入れるにせよ「広告感」が少ない。広告と認識されずクリックされるケースが多いため、自然なクチコミのようにPRすることができる。(広告感が少なすぎるとステマ問題にもなりかねないが)
注目を集めている理由
意思決定プロセスの変化
情報過多な時代で、信頼できる情報を取捨選択するための手間が掛かるようになった。匿名型の食べログが実名型のRettyに追い抜かれたように、「この人が言ってるから大丈夫」という、オーソリティに判断を委るユーザが増えて来ている。食べログの「点数操作問題」があったが、それ以外にもネットショップのクチコミを業者に依頼して書いてもらったり、匿名を利用して無責任な記事を量産したりと、その情報が「信頼性」に足るものかどうかをユーザは見極める力が必要になる。そんななか、「情報発信者」の重要性が増して来ている。
情報選択の変化
今時の若者は「Twitter」「Instagram」で情報を仕入れていると言われている。GoogleやYahooの検索結果はリスティング広告やSEOなど、お金を払えば(ある程度)上位表示できる仕組みになっており、ホームページは企業や店舗の一方通行な情報になっている。対してSNSに投稿される情報はリアルな情報が多く、「お店のメニュー写真と全然違う」といったことが回避でき、実際に体験した人とコミュニケーションを図ることができる。特にグルメ、観光地、ファッション、メイク、ネイルといった写真との親和性が高いジャンルは「Instagram」で情報を仕入れる女性が非常に増えている。
マーケティングの変化
テレビからポータルサイト(Yahoo・Google)に、ポータルサイトからSNS(アプリ)に、というように情報の取得先が変わりつつある。インターネットの発達で情報が一瞬に広まるようになると、キャズムを超える(一般化するまでの)時間が圧倒的に短くなり、様々なサービスが提供されるようになった。マーケティング戦略でも「年齢・性別」といった基本的な要素以外にも、「職業・性格・趣味・ライフスタイル」といった様々な要素が加わり、広告出稿主の選定が複雑化しつつある状態。
広告ブロックの増加
私のようなサイト運営者には耳の痛い話しだが、iPhoneやiPadでは「iOS 9」から広告ブロック機能が実装されたり、広告を表示させない「Adblock」が人気だったりと、広告を嫌うユーザは増えている。しかしインフルエンサーを活用する広告は「投稿」がメインなので、フォローしているユーザはブロックすることができない。
リーチ数が広くてCVRが高い広告となれるのか
従来のインターネット広告をザックリまとめると以下のようになる。
「ディスプレイ広告・DSP広告」は、サイトのURLを指定したり、特定のワードが掲載されているページを指定したりと、様々なターゲティング方法がある。同様に「検索連動型広告」も、一般ワード(広義なワード)と指名ワード(ブランド名)で分類されることが多く、一般ワードはリーチが広い分CVRが低くなり、指名ワードだとリーチが狭くなるがCVRが高くなるといったように、詳細に定義すると多岐に分かれるため、この図はあくまで大雑把に理解するために作成した。
基本的に広告というのはリーチ数(表示回数)が多くなればCVRが落ちる。CPA(顧客獲得単価)を落とさずにCVを増やすためには、図の右上の場所を見つける必要がある。
従来の広告と違い、TwitterやFacebookに広告を出稿できるSNS広告やインフルンサー広告は直接のCVに結びつかないケースが多いので効果測定がしづらい側面がある。InstagramではそもそもURLを投稿できない。
そのため「エンゲージメント」と呼ばれる、いいね!やコメント、リツイート、シェアなどの「リアクションの数」が重要になる。
「フォロワー数」「チャンネル登録者数」といった「リーチ数」ばかりに目が行きがちだが、実際に行動を起こしてもらわないと意味がないため、「影響力 = リーチ ✕ エンゲージメント」という視点で考える必要がある。
インフルエンサー広告が図のどの場所に位置づけされるのか、事例が少ないのでわからないが、SNSは利用ユーザの大半が若年層なので、BtoB向けの商材は向いておらず、美容・コスメ・ファッションなどの商材と相性が良いため、女性向けの商材なら活用してみる価値がありそう。
インフルエンサー・マーケティングの課題
ステルス・マーケティング(ステマ)扱いされる可能性
数年前、芸能人がアメブロで一斉に同じ商品をPRしたり、入札していないのに落札したと宣伝する「ペニオク問題」が話題になった。この問題は報酬を受け取りながら、それを広告と明記せずに宣伝していたため、ステルスマーケティングと呼ばれ、「ステマ」はその年の流行語にもなった。
宣伝するに際して広告の表示がないとユーザを恣意的に騙したとみなされるため、消費者保護の観点から広告表記が必須とされている。インフルエンサー広告は動画であれば「提供」「タイアップ」、投稿であれば「#AD」「#PR」などのマークが義務づけられている。
しかし、下の方にインフルエンサー広告の実例を載せたが、広告表記がハッシュタグ形式になっており、パッと見で広告かどうかはわかりづらい。広告主側は嬉しい話しかもしれないが、ユーザがステマと騒いでしまう可能性は十分にある。
景品表示法や薬事法の抵触リスク
広告主の商材は健康食品や化粧品などが多く、そういった商材は常に「景品表示法」や「薬事法(現薬機法)」の抵触リスクがつきまとう。
従来は「個人の意見だから」という大義名分のもと、アフィリエイターやキュレーターがインセンティブを受取りながら虚偽・誇大広告を乱発していたが、DeNAの「WELQ問題(信憑性のない医療情報の問題)」で行政の取締りが強化しつつある。問題の温床になりやすいクラウドソーシング会社やアフィリエイト会社は自主的に体制を見直すなど、消費者保護の観点から規則が厳しくなっている状態。
インフルエンサー広告は「PRマーク」が義務づけられているにせよ、PRする文章に細心の注意を払う必要があり、ユーザの誤解を招いてしまうことがあれば、今後さらに規則が厳しくなるだろう。
SNSに購買は向いていない?
各種SNSでは「購入(BUY)」に繋がるボタンを実装しているが、「Twitter」では今年の1月にボタンを廃止し「Facebook」は既に設置を辞めている状況。また「Instagram」「Pinterest」も同様に苦戦していると言われている。
2016年12月に発表された、eメールマーケティングプラットフォームのキャンペイナー(Campaigner)の調査では、「Buy」ボタンの成果として、72%のマーケターが「まったく販売につながっていない」と回答した。また、40%のマーケターは、「2017年に『Buy』ボタンの使用を減らすことを計画している」という。
インフルエンサー広告を滞在客へのブランディング(認知度拡大)と割り切るのであれば問題なさそうだが、アメリカではSNSと購買の親和性は低いというデータが出ているため、あまり成果が望めない可能性がある。
インフルエンサーのフォロワー離れ
普段の投稿内容と広告の内容に関係性がなかったり、広告の回数が多ければフォロワーが離れてしまうリスクがある。そうなると質の悪いアフィリエイターと何ら変わりがなく、影響力が落ちてしまうため、広告の内容や回数を精査する必要がある。また、複数のインフルエンサーが同時刻で投稿すると明らかに宣伝であることがバレてしまう可能性がある。
企業側が直接インフルエンサーに依頼するリスク
インフルエンサーに「報酬上げるから弊社の商材をPRして欲しい」と依頼した場合、正義感の強いユーザが「○○がステマしている!」と投稿してしまうリスクがある。そのため、広告代理店やプロダクションに依頼する方が安全と言える。
インフルエンサー広告の実例
Youtubeの実例
Youtubeで「メルカリ」と検索すると、使ってみた系の動画が多数あり、概要欄にアプリのリンク先が貼られている。
有名なYoutuberを見ていても、十数件の投稿の内、一件がタイアップ動画だったり商品紹介動画だったりと、何かしらのインセンティブを受け取っていることがわかる。
Twitterの実例
「#PR lang:ja filter:verified」と検索すれば、日本語の公式アカウントでハッシュタグが「PR」の投稿を探すことができ、インフルエンサー広告のような投稿がいくつか確認できる。
Instagramの実例
TwitterやYoutubeでは商品のURLを記載することができるが、Instagramでは投稿することができない仕様。そのため企業のインスタグラムアカウントを記載しているケースがある。
総括
ここ一年で、インフルエンサー・マーケティングを支援する会社が増えて来ている。
インフルエンサーという言葉は影響力のある人物に使われるが、最近ではマイクロインフルエンサーという言葉も登場している。
一般的にマイクロインフルエンサーとはフォロワー1万人以下の人物と定義されており、リーチ数は少ないものの、リアルの友達や同じ職場の人といった、関係性の濃いフォロワーが多いため、エンゲージメントが高い傾向にある。
マイクロインフルエンサー広告が流行れば、周りの友達が裏でお金を貰いながら、自分に商品を勧めてくるかもしれない。「ノルマが大変だから買って」と勧誘する友達に似ている。
ITリテラシーが低い、情報弱者を食い物にするような広告は許されないが、マイルドヤンキーが地方の消費を牽引しているように、健全な市場が活性化するのであれば問題ない。
しかし個人的な意見だが、アフィリエイト広告の胡散臭さがいつまで経っても拭えないように、健全な市場になるイメージがない。
「ネットの検索結果は広告で溢れているから、インスタの方が信頼できる」という傾向は、現在広告主が少ないだけであって、一過性の話しだ。インフルエンサーを活用する広告は、プラットフォーム側(TwitterやInstagram)に何のメリットもなく制御するのが不可能に近い。
ユーザが集まる所に広告主は群がるため、インフルエンサー広告は流行るはず。しかしSNSが広告で溢れてしまうと、広告表記がついた投稿価値は下がるため、一定のバランスを保つ必要がある。