作成日:2020.12.03  /  最終更新日:2020.12.03

デザイン会社としては初、唯一上場したグッドパッチとは?

ARAKAKI TAKATO

ARAKAKI TAKATO
グッドパッチ社の事業内容解説

スマートフォンやデジタルデバイスが本格的に普及して10年くらいになるだろうか。今でこそ、UI/UXという言葉は聞き慣れたワードになっているが、10年前までは日本にはそのような言葉は浸透していなかった。今回は、そのような時代の2011年に設立をし、現代においてとても重要視されているデジタル領域におけるUI/UXの先駆者とも言えるGoodpatchという会社のビジネスモデルや具体的な事業内容などを紐解いていく。

Goodpatch(グッドパッチ)とは

2011年9月に現社長の土屋 尚史氏が創業。土屋氏は、Webディレクターを経て、サンフランシスコに渡りデザイン会社でスタートアップ支援に携わっていた。業績としては2020年8月決算時点で、売上21.4億円、経常利益2.1億円、21年決算は売上25.9億円、経常利益3.0億円を予想している。

ベルリン、ミュンヘンにもオフィスを構え、世界で200名以上のデザイナーを抱える。2020年6月30日、デザイン会社として初の東証マザーズ上場。事業セグメントは大きく2つで、デザインパートナー事業とデザインプラットフォーム事業である。

大企業の案件だけではなく、お金を多く持っているとは言えないスタートアップの案件も未だに多く受けているが、それは創業まもない頃に今では多くの方で知っているであろう当時まだ3人で開発をしていたGunosyを手伝った時の原体験が影響している。

土屋氏がたまたまシリコンバレーで知り合った友人の作ったGunosyを、サービス開始当初からお金をもらわずにUIデザインを手伝い、Gunosyが有名になったことにより、グッドパッチも仕事が増えて今の規模まで拡大できましたという訳だ。

直近の売上高

2020年決算の売上高は約21億(前期比+27.3%)、営業利益に関しては約2.1億(前期比+187.3%)で約2.9倍に拡大し、収益性が大きく向上している。これは、大企業DXの大型案件にリソースを多く投下し、単価が上昇したことが背景にある。

2020年決算の売上高と営業利益

参照元:2020年8月期通期 決算説明資料

今年は、日本国内、海外子会社ともにコロナウイルスの影響を受けており、プロジェクト数減少はあったが、こちらに関しては6月以降で急回復している。

グッドパッチの損益計算書

参照元:2020年8月期通期 決算説明資料

成長に大きく貢献した事業としては、デザインプラットフォーム事業のGoodpatch Anywhereサービスが突出しており、前期比+149.5%の成長率を示している。

これは、コロナ環境下であってもフルリモートという形でサービス提供が可能であり、人材プール拡充にも遅れがなく、最小限の固定費でマネジメントができるていることが起因していると考えられる。

具体的な事業内容

事業は大きく2つのセグメントで構成されている。

グッドパッチの事業内容

参照元:2020年8月期通期 決算説明資料

まず、デザインパートナー事業では、事業の最上流戦略レイヤーから関わり、クライアントと共創しながらサービス全体をデザインして、ユーザーが触れるデジタルプロダクトのデザインまで行っている。 請負ではなく主に準委任契約での仕事であるのが特徴だ。

そして、デザインプラットフォーム事業では、多面的・⻑期的な支援が可能な以下5つほどの自社プロダクト・サービスを展開している。

・リモートワークチーム「Goodpatch Anywhere」
・デザイナー特化型キャリア支援サービス「ReDesigner」
・クラウドワークスペース「Strap」
・プロトタイピングツール「Prott」
・VR/XRプロトタイピングサービス「Athena」

UXが重要視される時代に

最近では当たり前になっているUI/UXがなぜこれほど重要になってるのでしょうか。

ユーザーに最も近いデバイス、スマートフォンの普及によって人々の生活は変化し、使っていて気持ちの良いUIデザインそして、あらゆる利用シーンにおいて複雑化するユーザー体験全体をデザインするUXデザインが重要になっているからである。

モノをつくれば売れる時代は終わり、コト(体験)を売る時代になったことで、より体験の価値が上がっているのである。それを示しているように、2013年以降AccentureやDeloitteはグローバルでデジタルエージェンシーを30社以上買収しており、slackやInstagram、YoutubeやPinterestなど、ここ数年で急成長している会社の共同創業者には共通してデザイナーがいる。

また、今や時価総額が日本の上場自動車9社の合計を超えた急成長企業テスラにおいてもその成長理由の一つに顧客体験がある。同社のトップを務めるイーロン・マスク氏の知名度、スター性はあるにせよ、実はこの成長の背景には、UX≒CX(消費者体験)を高めるためのいくつかの仕掛けがある。

環境にクリーンで実用に耐える電気自動車であることはご承知の通りですが、あらゆる機能が電子制御となっており、オートパイロット、自動縦列駐車機能、呼び出し機能などを装備されており、加えてこれら数々の高度なドライバー支援機能を、センターコンソールに備え付けられた大型のタッチスクリーンで操作が可能であり、これらの機能の更新と追加は、スマートフォンのように、配信されるソフトウェアでアップグレードすることが可能なのである。

大きな成功事例

ここでは、実はこのサービスはグッドパッチが関わっていたというサービス、グッドパッチの大きな成功事例とも言える過去の実績をいくつか紹介する。

ちなみに、グッドパッチはBtoC、BtoB企業含めて大手からスタートアップまで幅広い実績があり、なんと7年連続計9回のグッドデザイン賞を受賞している。

出前館の事例

最近ではダウンタウンの浜田 雅功さんがCMで出演されていることでも有名な出前館。

2019年3月28日に実施した出前館アプリのフルリニューアルを担当し、サービスコンセプトの言語化、UI/UXデザインからキャラクターデザイン、アニメーション作成までを手がけた。

SPEEDAの事例

主にSPEEDA事業とNewsPicks事業を展開しているユーザーベース。直近では2018年に買収を行った米国Quartz事業からの撤退、その責任を取る形で、現代表取締役の梅田優祐氏が今年末をもって代表取締役を辞任し、後任に稲垣裕介氏が就くことになっている。

そのSPEEDAの当時の提供価値の明確化及び事業のさらなる可能性を探索するユーザーリサーチからB2BのSaaS事業に属するFORCAS, INITIALの2プロダクト戦略策定支援を手がけた。

グッドパッチの特徴と優位性

世界で12.2兆円のデジタルエージェンシー市場において、日本では2018年段階で4,062億円の市場規模であり、これが5年後の2023年段階では倍の8000億円規模になると予想され、マーケットの成長率は14.4%である。

このような成長分野において、デザイン会社としては初にして唯一の上場会社という信頼性や知名度がまずは大きなアドバンテージである。その上で、次の4つの優位性がある。

独自のポジショニングにより案件を獲得

デジタルUI/UX領域での圧倒的な実績とブランドバリューにより、口コミとクライアントからの指名問い合わせでリードを獲得をしているため、広告費を掛けずに高確率で案件化に繋がっている。

戦略からプロダクト開発まで一気通貫の支援

戦略からプロダクト開発まで一気通貫で支援することで、通常のコンサルやSIerとの差別化を図っている。

通常戦略・ITコンサルティング会社がするようなどのマーケット、どのように戦うかを考えるというような戦略部分から具体的に課題を解決するプロダクトをどう作るかというような通常SI・システム開発会社がするような内容を一気通貫で行うことで、状況の変化に強く新しい知見の発見/学習を重視した再現性を持った事業支援が可能である。

体系化されたデザインノウハウとナレッジの蓄積

体系化されたデザインプロセスとデザイナー育成の社内研修体制に加え、社内のナレッジが投稿されるデータベースとプロジェクトを社内全体で振り返り共有する仕組みを構築している。つまり、デザイナーの属人性を下げ、クオリティの再現性を上げる仕組みである。

経験値の豊富な専門性の高いデザイナーの採用力

グッドパッチのデザイン領域での圧倒的なポジショニングにより、デザイナーにとって他では得られない成長機会の多さと働きやすい環境があることによって採用難易度の高いデザイナーを安定的に獲得できている。

今後の成長戦略

グッドパッチの成長戦略としては、以下4つのビジネス拡大を掲げている。

・UI/UXデザインを武器に大型DXプロジェクトの獲得
・デザイン領域の拡張とテクノロジーへの投資
・リモートデザインチーム:デザインタレントプールの拡充
・リモートコラボレーションツール:SaaS事業「Strap」への戦略投資

ここ最近、あらゆる業界、企業においてDX化が叫ばれており、それと同時に顧客体験価値も向上させることが重要視されている中で、グッドパッチはソフトウェアのUIデザインを改善し、ユーザー体験の向上と人の生産性向上につなげている。

また、企業のテクノロジーへの積極投資を追い風に、グッドパッチはリソース拡充とケイパビリティの拡大により1社あたりの契約期間を伸ばしていく計画である。そして、高収益事業モデルであるデザインタレントプールの拡充と4月にリリースしたβ版の「Strap」(登録企業数が5営業日で1800件以上の獲得をした)への更なる投資を行う予定。

この辺り、特にリモートデザインチームである「Goodpatch Anywhare」サービスについては、一見すると似たような他社サービスも多くある。例えば、クラウドワークスやランサーズ、などのクラウドソーシング領域も拡大をし続けており、そことの差別化も重要になってくる。

ここの部分においてグッドパッチとしては、デザインに特化をしている専門家ゆえに企業側とも単なる人手を補う役割ではなく、戦略から伴奏者としてのポジションを確保し、案件に関しても適切な見極めを行うことで、より質の担保された優秀なデザイナーも確保できるというような構造だ。

「Goodpatch Anywhere」サービスについて

参照元:Goodpatch Anywhere

「Goodpatch Anywhare」は、全国各地に居住するフリーランスのデザイナーの中からスキルの確かな人を集め、プロジェクトチームを組成。フルリモートでデザインチームを提供するというサービスを提供している。

グッドパッチの数ある事業の中でこのサービスを取り上げたのは、そのビジネスモデルが、領域は違うものの近年多くの会社で似たようなモデルがあると思うからだ。

例えば、同じ時期に上場を果たしたBranding Engineerという会社もフルリモートではないが、エンジニアチームを提供している事業であり、直近上場承認がなされたKaizen Platformという会社もグロースハッカーという分析のスペシャリスト人材の提供をしている。

コロナの影響もあり、今後ますますリモートによるパソコン上だけで完結できる仕事が増えてくることを想定した際に、このリモート完結でのサービス提供というのは収益性の観点から見ても非常に可能性のある取り組みであり、多くの業界、企業においても応用できるモデルではないかと思う。

総括

スキルとセンスというワードをよく耳にするようになったと思う。

今回の「デザイン」という領域に関しては、一般的にはセンスのような捉えられ方されるが、デザインで有名な水野学さんの著書『センスは知識からはじまる』とあるように、その根底には知識があり、基本的に美しいデザイン、人が感動するデザインというのはロジカルな領域である。

ただ、一般的に言われているようなロジカルシンキングなどのひとつの解を求めるようなスキルに比べると、センスの要素をたぶんに必要としているのも事実かもしれない。

今後はそのようなスキルが均一化し、最終的に機械ではなく人でしか出来ない部分がセンスの領域で、ゆくゆくはそこでしか差がつかない世界になっていくのではないかと思う。

そういう観点では、デザインという領域での圧倒的な地位にあるグッドパッチの今後は非常に楽しみな存在ではないでしょうか。

ARAKAKI TAKATO

ARAKAKI TAKATO

小中高は野球漬けの毎日。高校卒業後は教員になることを考え浪人をし大学に進学するも、ご縁があり民間企業に就職。社会人としてはベンチャー企業にて中堅・中小企業の経営者向けコンサル営業。新規開拓営業メインで年約200名の経営者と対峙している。

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