人の日々の生活で重要とされている3大要素である衣・食・住の中で、特にこのコロナ環境にあって大きく変化したのは、「住」ではないだろうか。それは、もちろん実際に居住用という意味での住宅という見方もあれば、今回のような経済変化が大きい年などの場合は、投資用という意味での「不動産」という見方もできると思う。
コロナによってリモートワークなども多くなり、都心部から少し離れた郊外へ移り住むという動きや、投資という観点では現金を手元に置いておきたいという需要から、売り物件の情報が信託銀行などにも多く集まった。
いずれにしても、2020年は住宅、不動産という市場にとっては大きな流れの変化があった年であることは間違いないと考えている。そこで今回は、その「住宅」「不動産」という市場の中でも盛り上がりを見せている「中古」という切り口で、直近注目を集めているツクルバという会社を徹底解剖していきたい。
ツクルバとは
ツクルバは現CEO村上浩輝氏と、現CCO中村真広氏の共同創業者2人で2011年に創業。
その後、2019年に東証マザーズに上場し、直近2020年の通期決算では、売上高約17億、社員数135名と右肩上がりで成長をしている。
元々、村上氏と中村氏はデベロッパー大手のコスモスイニシアの新卒入社時代の同期であり、それぞれ2人はコスモスイニシアを退職後、村上氏は住宅情報サービスを手がける現LIFULLに、中村氏は退職後にミュージアムデザイン事務所にそれぞれ活躍場を移した。
その後、村上氏がいた経験した不動産×テクノロジーの領域で今日のcowcamo(カウカウモ)という事業アイデアが生まれた。
現在の事業セグメントは、先ほどご紹介したcowcamoの事業とシェアードワークプレイス事業(空間デザイン・プロデュース事業)で大きく2つに分かれているが、創業時の事業としてはそれ以前に実は「co-ba shibuya」というクリエイターのためのシェアオフィス運営から始まっており、これは当時ではまだ珍しいクラウドファンディングで資金調達をして立ち上げたものである。
直近の業績
ご覧の通り、全体では今期売上が約17億(前年対比+13%)、総利益が約10億(前年対比+12%)で伸びているが、利益はマイナスで成長投資を進めている状況である。今期に関してはコロナウイルスの影響が大きく、物件内覧や対面での相談ができないことによる機会損失が大きかったと思う。対応としては最近のVRを活用したリモートでの内覧などを進めたが、やはり通常営業ほどの動きには繋がらなかったようだ。
ここに関しては個人的にもまだまだ対面と同等のパフォーマンスを出すには時間はかかると考えている。昨今のエンタメやアパレル業界など、比較的小額の買い物であればまだしも、人生でも1位、2位を争う住宅、不動産という大きな買い物を、実際に足を運ばずにVRなどのリモートだけで完結できるとはなかなか想像しづらい。一応、Q毎の売上高、売上総利益の推移もあり、特に今期Q3〜Q4にかけてはコロナウイルス影響がわかりやすく出ている形である。
カウカモ事業の重要指標
ツクルバ全体の中でも成長を牽引しているはカウカモ事業であり、業績はもちろん重要ではあるが、中長期的にプラットフォームのネットワーク力を向上させ、魅力的なプレイスにするために重要な指標になるのが、「GMV(流通取引総額)」と「会員数」である。
ちなみに、これはcowcamoだけに限らず、メルカリやアマゾン、楽天、BASE、ZOZO、CAMPFIREなど、プラットフォーム構造の事業を展開している企業にとって、それぞれで多少言い方に違いはあるかもしれないが、いわゆる「売り手」と「買い手」が存在しており、双方にとって魅力的な場であればあるほど、プラットフォームとしての力は高まり、それに応じてテイクレート(手数料)も高くなり、より利益が出やすい構造になる。
その際重要になってくるのが、先ほどお伝えした「CMV」「会員数」である。
この数値に関して、cowcamoは上の図の通りコロナ環境下においても変わらずGMV、会員数は右肩上がりで大きく成長しており、場としての魅力、力がどんどん高まっている状況であることが分かる。
cowcamoの今期の数値で考えた場合に、GMVが約195億、売上総利益が約10億ということで、現時点でのテイクレートはおおよそ5%程度となる。これは同様のプラットフォーム事業を運営している他の企業と比べて、まだまだ伸ばせる余地があると思われる数値である。
参考までに他社のテイクレートと少し比較すると、CAMPFIREは約12%、メルカリは約10%、楽天は約7%、そしてZOZOはなんと約35%ものテイクレートである。
これを考えると、cowcamoの今後の利益成長としては今の倍近い数値は見込めると考えても不自然ではないと思う。そのためにはやはり、魅力的な物件とそれを買う人、それぞれが多く集まってくるような取り組みを強化する必要があり、今はまだそのための地盤固めのフェーズといったところだろうか。
具体的な収益構造(ビジネスモデル)
今回はツクルバの中でもやはりメインのcowcamo事業について更に具体的にみていきたい。
上記図のように、左側の売り手と右側の買い手をマッチングしているプラットフォームを運営している。
売り手に関しては、個人だけではなく法人の再販事業者もあるため個人とは異なり、ある程度個別に一社一社広げていくことが出来るため、広告などでの認知獲得とはまた違う法人営業のような形で物件の仕入れを広げる取り組みが可能である。
ここに関しては、2021年7月期以降の具体的な取り組みとして、これまで自社のエージェントサービスが中心だった形から、外部パートナーエージェントの活用を強化することで、自社の固定費リスクをコントロールしながら再販事業者との連携を進めることで物件供給および事業者向け事業の強化を実施する計画である。
先ほどお伝えした重要指標である「GMV」「MAU」を高めることが売上利益を拡大させていくためには必要であるが、このGMVを高めるにあたっては一会員あたりの購買単価×購買頻度も非常に重要であり、ここに関しては同様のモデルで展開している企業との1番の違いとして、購入頻度が圧倒的に少ないことが挙げられるのではないかと思う。
もちろん、逆にいうと単価自体が大きいため、その頻度分をカバーするだけのポテンシャルもあると考えられなくはないが、アマゾンや楽天などのように頻繁に利用するほどマネタイズ出来る機会というは広がるだろう。これはオンラインデーティングのようなマッチングサービスを提供している企業も似たようなところがあり、基本的には一度その場で良いマッチングが成立した場合には、そのプラットフォーム利用者は減る傾向にあると考えられる。
そのため個人的には、不動産という領域において1回、2回の購買でcowcamoの利用が終わらないような、新たな付加価値の提供があると非常に面白いのではないかと思う。
オンライン不動産
ここではオンライン上での不動産との関わりについて少し別の観点から考えたい。
オンラインでの経済活動とは縁遠そうな不動産ではあるが、先ほどご紹介したように急成長というスピードではないが、徐々にその需要は拡がっているが、このような動きは実は投資用不動産においてはより活発化したものがある。
近年、不動産特定共同事業法」(不特法)の条件が緩和され、多くの中小企業不動産会社の参入が容易になり、この法に基づく不動産×クラウドファンディングの動きも出てきており、昨今では物件選びから契約手続きまで一貫してオンライン上で完結し、金額的にも1万円から投資が可能というサービスも拡がっている。
例えば、プロパティエージェント株式会社が展開している不動産投資型クラウドファンディングサービス「Rimple」は、今年2020年の2月にサイトをオープンし、約2ヶ月たらずで累計登録ユーザーが3万を突破するという反響ぶりである。また、株式会社ブリッジ・シー・キャピタルが展開しているCREALというサイトに関しても、マンション投資の案件をいくつか出したところ、早いものでは20秒ほどで募集が完了するというほど人気がある。
このように、これまではオフラインで実物不動産を数千万円単位で投資をするという不動産投資が、今ではオンラインで1万単位という少額で投資が出来る時代が普通になっており、個人的にはこの流れが居住用でも更に広がることを期待したい。
今後の成長戦略
同社の今後の成長戦略、方向性としては以下の4つを掲げている。
・拡大する中古・リノベーション住宅流通市場での独自のポジショニング
・プロダクト、マーケティング力を軸とした自律的成長モデル
・バリューチェーンの統合による事業アセットと競争優位
・ユーザー基盤の構築による成長ポテンシャル
独自のポジショニングについては、現時点では特段競合らしい競合は見当たらず、このモデルを考えても今後も明らかに真っ向からぶつかる競合が現れるとは考えずらいため、今後の一定の優位性を保った形で事業を進められるのではないだろうか。
自律的成長モデルについては、主にスマートフォンを起点に徹底的なユーザー視点を追求することで、出会い方の接点部分からこいう買い方の購入部分まで、これまでのオフラインではなくオンラインでの高いエンゲージメントを維持した形を想定している。これについては同社のこれまでのノウハウや顧客データなどをいかせば、更なる向上の余地は十分にあると考える。
競合優位についても同様に、これまでの同社のノウハウ、様々なデータ、顧客基盤などを考えれば、ビジネスモデル上、これから同分野で新たな競合が現れることも考えづらく、競争優位性は非常に高い。
ユーザー数の今後の成長ポテンシャルも、これまでの流れを考えれば一定水準レベルまでは拡大することは想像に難くない。1点だけ、同社が前提としている部分で、個人的には少し懐疑的に考えている観点がある。
それは、ユーザー数の拡大余地と買い替え頻度についてだ。
同社の考えによると、以下の図のように、買い替え頻度や中古住宅流通市場についての見解として一貫してポジティブな内容で、もちろん流通市場については単純に他の国と比較した場合にはそこには大きな差があり、それを埋めるだけの余地はあるといえるかもしれないが、逆に考えると不動産という昔からある市場において、長年の月日を経てなお国別でこれだけの差があるということは、国柄、地域柄、民族柄、いわゆる中古不動産というものに対する考え、価値観があまりポジティブではないというふうに考えることも出来るのではないだろうか。
これは買い替え頻度についても同様で、そもそも中古不動産というのものがある意味受け入れられてこなかった中で、そのような体験を初めて経験することはもとより、その購買頻度が上がるということは、普通に考えるとなかなか現実的ではないと個人的には考えている。
国民一人一人が経済的にこれまでと比べ圧倒的に豊かになるか、これまでの価値観がガラリと変わるような経験がない限りは、早々に市場を拡大することは難しいのではないだろうか。
総括
このようなことを考えた場合に、違った視点からの策として、主に日本人がこれまで中古不動産を購入してこなかった背景として、どのようなことが考えられるのか、またその考え、価値観を変えられるような取り組みにはどのようなものがるあるのかを模索することも市場拡大に貢献できる動きになるのではないだろうか。
今回、中古住宅プラットフォーマーであるツクルバの決算などを読み解いていったが、同社の事業は今後の日本のことを考えると非常に有意義な事業を展開していると思う。
政府の未来投資戦略の計画としても、既存住宅流通・リフォーム市場を中心とした住宅市場の活性化が掲げられており、そのような意味でもツクルバの事業は非常に重要な役割を担っている。後半に述べた通り、急激な成長や市場が倍になるほどの拡大というのはかなり長期的な話になるのではないかと考えているが、ここに関しては少しずつ着実にユーザーを拡大していき、長期的に中古不動産の「文化」が根付いていくことに期待したい。