作成日:2021.01.03  /  最終更新日:2021.01.03

白物家電をリデザインするバルミューダを徹底解剖

ARAKAKI TAKATO

ARAKAKI TAKATO

バルミューダは今年2020年12月16日、東証マザーズに上場をした新興家電メーカーである。これまで「バルミューダ」という言葉を何度か耳にしたことのある方も多いのではないだろうか。人によってはその製品を目にしたり、実際にその製品を使っていたりする方も多くいるだろう。

かつてはパナソニック、日立、シャープ、東芝など日本を代表する家電メーカーが世界初の製品を多く世に打ち出し、日本製品に対する信頼やブランドは今でも非常に高いものがあるが、ここ数年は家電製品はじめ、モノが売れなくなった時代と言われている。そのような時代に、2003年の設立以来成長を続けているのがバルミューダである。今回は時代の流れとは逆行して成長を続けているバルミューダについて紐解いていく。

バルミューダとは

バルミューダは、2003年に元々バンドマンだった寺尾玄(てらお げん)氏が設立した会社である。社長である寺尾氏の考え方や創業までの経緯が非常に変わっているため、ここでは会社の概要と寺尾氏が会社を立ち上げてからの内容に分けてお伝えしたい。

会社概要

2003年に当時は有限会社バルミューダデザインという社名で設立。後の2011年4月、バルミューダ株式会社へ社名変更。2020年12月期予想で売上約123億、営業利益約12億、社員数119名。家電製品などの企画、開発、デザイン等は内製化し、製造は国内外のメーカーに外注するといういわゆるファブレスメーカーとして、主に高価格帯の製品を販売している。

製品分野としては、キッチン商品、空調商品で全売上の約9割を構成。販売チャネルとしては、家電量販店、百貨店、自社のオンラインショップ、海外代理店など幅広く、その中でも家電量販店での売上は約25%を占めている。

ストーリーズ

寺尾氏の感覚は非常に興味深く、実際にバルミューダを設立するまでの経緯も非常に特徴的である。寺尾氏は17歳の当時、学校で配られた進路アンケートの用紙にあった「将来の職業」の記載枠に対して、17歳の今将来を決めるということは自分が最も大切にしている「可能性」に対する侮辱になるのではないか、という嫌悪感を抱き、高校を中退

その後、スペイン、イタリア、モロッコなど、海外を放浪し帰国後、バンド活動を開始し大手レーベルと契約するなど活動専念したが、2001年に解散。そこからモノ作りの道を志し、春日井製作所という町工場に飛び込み、そこで教えを請いながら独学で設計・製造を学んだ。その後2009年時は、売上高4500万円で1400万円の赤字、3000万円もの借金を抱え倒産寸前だったが、最後に密かに練っていた「The GreenFan」という扇風機で起死回生のロングセラーヒットを生み出した。

その背景には、当時家電芸人として人気だったお笑いコンビTKOの木本武宏氏の存在があった。当時寺尾氏はこれまでの普通のやり方では絶対にダメだと思い、木本氏が所属する松竹芸能の事務所に向かい熱烈なプレゼンを行った。そのプレゼンを受け木本氏はその製品に感動し、是非テレビ番組でプレゼンさせてくれないか、と申し出、その流れで実際にテレビで放映され、放映があった次の日は会社の電話が鳴り止まないほど商談依頼が殺到した。

直近の業績

日経会社情報DIGITAL

参照元:日経会社情報DIGITAL

同社の業績は、2019年12月期は売上高約108億(前期比−3.1%)、営業利益約10.7億(前期比−35.4%)であり、今期2020年12月期はまだ予想段階ではあるが、売上高約123億(前期比+13.7%)、営業利益約12.7億(前期比+18.9%)の成長で堅調に推移している。

また、同社の営業利益率はおおよそ10%程度で推移しており、これは同業のメーカーと比べても非常に高い数値であり、冒頭に挙げたパナソニックや日立、シャープなど国内主要家電メーカーの営業利益率は5%前後であるので、約2倍の水準であることが分かる。同業同規模のツインバード工業と比べると約10倍もの差がある

この要因については後ほど詳しくお伝えできればと考えているが、まず大きな要因として考えられるのが同社のファブレス経営というスタイルであり、高価格帯の商品群である。ちなみに、近しい領域で東証1部上場の家電美容メーカーであるヤーマンも同じファブレスメーカーとしてバルミューダとほぼ同水準の利益率を誇っている。

今期の業績とコロナウイルスとの関連については、同社の見解では巣ごもり需要というプラス面での影響を受け、特にキッチン系の製品が好調で売上高は堅調に推移したとしている。これについては、確かに同社が扱う製品は家で使用するものがほとんどであり、今年は例年以上に家で過ごす機会が多くあったため、自宅内の環境を快適にし、より良い生活を送りたいというニーズはかなりあったと考えられる。

ファブレスメーカーについて

成長可能性に関する説明資料

参照元:成長可能性に関する説明資料

バルミューダは、ファブレスメーカーの1社であり、上の図は同社のそのモデルを示したものである。このようなファブレスの形態で経営をしている会社は他にも多くあり、よく知られている企業が実はファブレスメーカーであるということも多々ある。例えば、日本で約50%のシェアがあるiPhoneを販売しているアップルは、ファブレスメーカーの代表的な1社であり、その他アメリカの半導体メーカークアルコムナイキ、日本国内では任天堂キーエンスエレコム伊藤園などがある。

ちなみに、ファブレスとは字の通り、工場(fab)を持たずに製造業としての活動を行うことであり、多くの場合自社では製品の企画から設計・開発を中心に行い、物をつくる工程は外部の工場に委託をして、最終的に出来上がった製品を自社ブランドとして販売している。先ほどお伝えしたように、ファブレスメーカーは総じて営業利益率が高くそのメリットは多くあるが、一方で一部デメリットもあり、ここでは少しそのメリット・デメリットをそれぞれお伝えできればと思う。

ファブレスのメリット

ファブレスであることによるメリットは大きく以下4つであり、それぞれについて説明する。

・生産設備や人員などの初期費用が抑えられる
・市場の変化(ニーズの変化)に柔軟に素早く対応できる
・企画・設計・開発などに自社の経営資源を集中させることができる
・製品が多品種の場合に、製品ごとにマッチする工場の選択ができ、生産コストを抑えられる

生産設備や人員などの初期費用が抑えられる

これは1番わかりやすいかと思うが、工場建設には莫大な費用がかかり、そこでの製造に必要な各種設備や、配置する人員のランニング費用もかなりのコストがかかる。これらの初期費用が抑えられ、何か新規で始める際のハードルが低く、スムーズに製造が可能である。

市場の変化(ニーズの変化)に柔軟に素早く対応できる

今回のコロナウイルスなどの社会変化が大きい場合には、当然経済活動にも影響が大きく、それゆえ会社、人のニーズの変化も起こることが普通にあるため、固定費を出来るだけ減らしたり、新たなニーズに対応するというような柔軟な対応がスピーディーにできるということが可能になる。

企画・設計・開発などに自社の経営資源を集中させることができる

自社で物をつくる工程を行わない分、それ以外の工程(企画・設計・開発)に経営資源を集中投下することができ、自社ですべてを行っている企業と比べるとその工程領域ではより優れた取り組みが可能であり、競合優位性にも繋がることが多くある。

製品が多品種の場合に、製品ごとにマッチする工場の選択ができ、生産コストを抑えられる

自動車のような、通年でそこまで多品種の製品を製造せずひとつの型を大量に製造する企業の場合には、自社で工場を持つ方がスケールメリットなどもありプラスの要因が大きいが、家電製品やパソコン周辺機器などニーズの変化も早く、様々な種類の製品を製造する必要がある場合には、それぞれに製品、その時々の経済状況などを鑑みて、よりマッチした工場の選択が可能であり、結果的に生産コストも抑えられるのである。

ファブレスのデメリット

一方でファブレスであることのデメリットも多少なりともあり、以下3つについてそれぞれ説明する。

・生産量拡大に比例したスケールメリットが得られない
・生産管理/品質管理が難しい
・製品や技術の機密情報の漏洩リスクがある

生産量拡大に比例したスケールメリットが得られない

先ほどお伝えした自動車であれば、大量生産が可能な体制であり、稼働率が100%に近づけば近づくほど一製品あたりのコストを下げることが可能であり、購買におけるスケールメリットをいかしたコスト削減も可能だが、ある一定量の生産を想定しそれを外部に委託している場合にはそれらの恩恵が得られず、全体の生産量に比例して常に一定のコストがかかる。

生産管理/品質管理が難しい

1番のデメリット要因が大きいであろう生産管理/品質管理の部分だが、当然自社の工場ではなく、目の届きにくい外部に委託している以上、その製造体制をこまめにチェックすることは難しく、一定の品質を保ったり、急な対応依頼に応えたりすることも難しくなる。実際に、任天堂のゲーム機「スイッチ」はこのコロナ環境下での需要が非常に拡大しその生産対応ができず、国内の出荷を一時停止するという状況になった。

製品や技術の機密情報の漏洩リスクがある

バルミューダも主力のトースターや扇風機のリコール発生で18年12月期に大幅減益となり、やはり品質問題のリスクも大いにある。これも想像に難くないと思うが、自社の工場で自社の社員による生産であれば、製品技術や生産技術などの情報や生産におけるノウハウも基本的には社内に蓄積されるが、これを丸っと外部に委託するとなると、情報やノウハウなどは契約などで規定は結んでいるとはいえ一定の漏洩リスクは常にある。

バルミューダの特徴と優位性

同社が堅調に成長し続けている理由、他社と比べて2倍近い営業利益率を誇る理由をその特徴と優位性から考えてみたい。同社の資料からは以下4つが挙げられている。

・自由なアイデア
・高いコミュニケーション能力
・実現するための組織とワークフロー
・バランスの良い販路構成

自由なアイデア

同社では常に常識を疑い、覆すという強い姿勢があり、既成概念にとらわれず過去の前提、過去の規格にも合わせることなく、真のイノベーションを起こすための自由な発想を大切にしている。

高いコミュニケーション能力

製品を販売するために多くの会社は、広告代理店を活用することでその企画から媒体選定など諸々もの広報活動を進めているが、同社は広告代理店を一切活用せず一部外注は依頼するものの、基本的にはグラフィックデザイナーを抱え、企画から具体的なイメージ制作、撮影、制作作業等、広告宣伝とその表現手法を自社内で開発している。

実現するための組織とワークフロー

一般的なメーカーのような紙からの企画書ではなく、技術検証を進めるための原理試作から始める。日常の道具は人々の体験のためにあるという体験価値をコンセプトに、技術検証だけではなく販売時の訴求方法や開発ストーリー、訴訟リスクやビジネスリスクの検討など様々なアセスメントを経て量産体制に漕ぎ着ける。

バランスの良い販路構成

多くのメーカーが1つ2つ程度の販路構成で、一般的に家電量販店やTV通販などをメインに販売を行っているが、同社はそれらの販売先はもちろんのこと、カタログ通販やインテリアショップ、自社+アマゾンでのEC、百貨店、代理店など非常に多岐にわたる販売先があり、それぞれにそこまで大きな偏りがなくバランスの取れた構成になっている。

同業他社との比較

これまで同社の強みや特徴、優位性などを様々お伝えしてきたが、ここではそれらが結果的にどのような違いとなって世の中に現れているかについてもう少し具体的にお伝えする。大きくは以下2つの図の通り、「ポジショニング」と「顧客層」である。

ポジショニング

成長可能性に関する説明資料2

参照元:成長可能性に関する説明資料

先にお伝えしたように、自由な発想による高いデザイン性と論理的な技術検証による高い機能性により、ご存知のように他と比べて圧倒的に高額な価格帯である。

キッチン製品、空調製品など様々な製品群があるが、図に示したように価格としては市場商品平均の2倍から差が大きいもので10倍の違いがある。それでいて一定のマーケットシェアをとっているのがすごい。

顧客層

成長可能性に関する説明資料3

参照元:成長可能性に関する説明資料

高価格帯の商品群であるため、やはりある程度購買力のある顧客層に支持される必要があるが、同社の場合、図のようなハイブロー層という一般的に知識層と呼ばれ、先進国では人数が多く、かつ所得セグメントは富裕層よりも総数が多い中間層から富裕層にまたがる層をターゲットとしている。実際に年収別の認知度に関しては、400万〜600万円、1000万〜1500万円の層が上位であり、平均は728万円であり、バルミューダに興味があると回答した人は、世帯年収が高めの傾向にある

今後の成長戦略

今後の成長戦略に関して、ここでは市場全体の規模と同社の特に売上高における成長戦略を見ていきたい。

市場規模

成長可能性に関する説明資料1

参照元:成長可能性に関する説明資料

国内の生活家電の市場規模に関しては、今現在約7000億で、AV家電や通信家電がマイナス成長なのに対してプラス基調を維持している。世界に視野を広げるとその規模はおよそ45兆円であり、世界の人口は増え続け生活に豊かさを求める流れもあり、同社の拡大余地は十分にあると考えられる。

成長戦略

成長可能性に関する説明資料4

参照元:成長可能性に関する説明資料

ひとつの国、エリアにおいて一つの商品で取れるシェアはある程度限られているため、国内においては記載の通り新商品を市場に投入するということがまずシンプルな取り組みとして挙げられる。また、グローバル展開に関しては商品自体はまだまだ展開の余地が十分にあるため、しっかりとしたマーケティングやニーズを捉え、受け入れられる製品を開発できるかどうか、まだその販売方法含めた取り組みが鍵になるだろう。

そのためにも、同社としては上場して得られた資金も含めて、営業利益率は10%を目安に維持した状態で研究開発費や人材への投資を強化していく計画である。また、将来的には小型家電以外の領域にも積極的にチャレンジしていく計画もある。

総括

今回バルミューダという「会社」を色々と紐解いていく中で、もちろん会社自体の強みや特徴、技術力やデザイン力などは十二分に認識ができ、今後もますます成長していくだろう予測は難しくなかったが、個人的に印象に残ったのは、やはり創業者である寺尾氏の感性である。

とあるインタビューの内容に、イノベーションを起こすために必要な2つの力があると伝えており、それが「夢を見る力」と「論理的思考力」である。後者の部分については理解もしやすく日頃多くの方が意識している部分でもあると思うが、「夢を見る力」という内容に関しては、簡単そうで大人になればなるほど失っていく力なのかもしれないと感じた。

確かに、一定上のパフォーマンスをイノベーションとした時には、やはり目標の設定値が高い必要があり、そのためには「夢」レベルから逆算された言動を日々地道に取り組んでいく必要があると感じた。今年は世界中が悲しい状況に陥ってしまったが、このような時だからこそ「夢を見る力」が必要なのかもしれない。

ARAKAKI TAKATO

ARAKAKI TAKATO

小中高は野球漬けの毎日。高校卒業後は教員になることを考え浪人をし大学に進学するも、ご縁があり民間企業に就職。社会人としてはベンチャー企業にて中堅・中小企業の経営者向けコンサル営業。新規開拓営業メインで年約200名の経営者と対峙している。

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