作成日:2020.12.21  /  最終更新日:2020.12.21

老舗比較サイトを運営する株式会社イノベーションを徹底解剖

ARAKAKI TAKATO

ARAKAKI TAKATO
株式会社イノベーションのビジネスモデル

カカクコムの「価格.com」から始まり、食べログやぐるなび、じゃらんや楽天トラベルなどのBtoC領域での比較サイトが世に出始めてから久しいが、この比較サイトという取り組みで比較的まだ新しいのBtoBの領域でかなり初期の2007年にスタートした「ITトレンド」という比較サイトを立ち上げた会社が、イノベーションである。

BtoBの領域においても、IT製品やHP制作、士業、最近ではSaaS系など様々な業界、製品サービスジャンルのサイトがあり、それぞれの会社の収益構造や取り組み内容も微妙に違うことで面白みがあり、今回はその中でもBtoB領域では老舗と言われるイノベショーンの美イジネスモデルや直近の事業状況について紐解いていく。

イノベーションとは

2000年の12月に、リクルート出身の富田直人氏が立ち上げた会社である。

その後、2016年に東証マザーズに上場し、今現在、売上約20億、社員数約100名という規模まで成長を続けている。事業としては、主にITやデジタルを活用してBtoBマーケティングと営業の支援をしている会社である。

そのような新興IT系企業も、実は元々の事業は、今のIT系ビジネスとはイメージがかけ離れた法人向けのテレマーケティング代行サービスのサービスで、いわゆるアウトバウンド型のテレアポ代行サービスなのだ。その後、リスティング広告代行事業なども行い、この2つの事業で当時ピーク時には売上15億円程になるまでに成長をしていた。

そこから上場を考えるにあたり、当該事業からの撤退を決め、現在の主力サービスである「ITトレンド」「BIZトレンド」というIT製品の比較サイトの事業を2007年、2008年にそれぞれスタート。その後も、セミナー動画プラットフォームの「Seminar Shelf」やセールスクラウド事業の「List Finder」など、新規サービスをリリースしており、直近はこのコロナを追い風に業績も右肩上がりで成長している。

直近の業績

2020年3月期決算説明資料

参照元:2020年3月期決算説明資料

2020年3月期決算説明資料

参照元:2020年3月期決算説明資料

今期の業績に関して、売上高は過去最高で約20億(前年同期比+135.9%)、当期純利益も173百万円(前年同期比+805.1%)と、収益力が非常に向上している。

セグメントとしては、メインのオンラインメディア事業が売上の約8割を占めており、セールスクラウド「List Finder」は、ビジネスモデルの違いもあり、比較的人力での営業活動を必要としていることから、そこまで大きな伸びではないが、着実に成長している事業である。

2020年3月期決算説明資料

参照元:2020年3月期決算説明資料

具体的な数値に関して、オンラインメディア事業については、「ITトレンド」、「BIZトレンド」、セミナー動画プラットフォームの「Seminar Shelf」のサービスで構成されており、ITトレンド・BIZトレンド2つのサイト合計訪問者数は、累計で年間709万人(前年同期比+44.1%)であり、これはコロナウイルスの営業で「WEB面接」「WEB会議」「チャットボット」などの検索ボリュームが増大したためである。もちろん、自社で検索エンジン経由の集客効率改善をしてきたことも起因している。

そして、2つのサイト合計のUUは2020年4月で100万UUを超えており、これは前年平均月UU数の倍近い数値である。Seminar Shelfについては詳細な数値が公表されていないため、ここでの解説は割愛する。

次にセールスクラウド事業について、「List Finder」は、今期の開拓アカウント数が483件(前年同期比+3.4%)で、累計導入も1,700アカウント数を突破している。また、同サービスの1アカウント当たりの期中累計売上高は約70万(前年同期比+55.8%)で大幅に単価が向上している。「Sales Doc」は、昨年8月にリリースしたばかりの比較的直近の新規サービスであり、そのため現時点では無料導入も進めており、そのアカウント含めて約250アカウントを獲得している。

このセールスクラウド事業は、直近ウェビナーサービスの運営を手がけるコクリポという会社を完全子会社したことで、同サービス含めた3つのサービスで新たにITソリューション事業という名称に変更している。

具体的な収益構造(ビジネスモデル)

先ほどお伝えした、オンラインメディア事業、ITソリューション事業(旧セールスメディア事業)について、ここではそれぞれの具体的な収益構造、ビジネスモデルについて深ぼっていく。

オンラインメディア事業

改めて、オンラインメディア事業の構成としては以下3つのサービスから成り立っている。

ITトレンド(企業のシステム担当者向け、IT製品の比較・検討、資料請求、お問い合わせサイト)
BIZトレンド(企業の人事・総務・マーケティング担当者向け、各種サービスの比較・検討、資料請求、お問い合わせサイト)
Seminar Shelf(ビジネスパーソン向けセミナー動画のプラットフォーム)

ITトレンド・BIZトレンドとSeminar Shelfではサービス内容が若干違うため、まずは2つのサイトについて見ていく。

ITトレンドとBIZトレンド

ターゲットとサイトに載せている製品が異なるだけであり、ビジネスモデル、収益構造に関しては同様である。基本的には、成果報酬課金のみのモデルある。

一部初期掲載費用がかかる場合もある。金額に関しては、1万〜1.5万/件という単価設定であり、上限設定も可能である。また、別途オプションプランというものもあり、これは各サイトでの「上位表示」「PR枠」「バナー広告枠」のような形で提供しており、金額に関しては製品カテゴリーにもよるが、おおよそ5万〜20万/月の設定になっている。

そのため、この2つのサイトの売上に関しては、「サイト訪問者数」×「資料請求・問い合わせ数」「コンバージョン率」の掛け算ので決まる。細かい正確な数字までは把握できないが、前年と数字を比較すると興味深いことがわかる。決算資料の数値を見ていくと、今期が訪問者数が約710万人でそれが前年対比44%ということは、前年訪問者数は約490万人であり、その差はおよそ220万人であり、前期と今期での売上の差は約5億であることがわかる。

つまり、220万人が訪問することで5億の売上が作れるのであれば、単価を1万/件とし、1人が1件の資料請求をしたと仮定した時には、約50人に1人が資料請求や問い合わせなどの成果課金に繋がるアクションをとっていることが想定できる。コンバージョン率で言えば2%である。実は、この1人が何件資料請求するかがこのモデルの場合は非常に重要な指標でもあり、場合によってはその件数の違いで月に数千万円変わることもある。

そのため、同様のサイト含めこのような比較サイトの場合には、数社に対して資料請求ができる「一括資料請求」というようなボタンがある。

Seminar Shelf

次にセミナー動画プラットフォームの「Seminar Shelf」だが、こちらも基本的には成果報酬課金モデルで、単価に関しては5,000円/件と安価だが、初期費用として動画制作費が10万/動画かかるため、このあたりは少し手間や費用がかかるイメージである。1動画再生あたりの単価ではあるが、一応60日以内の複数動画視聴は課金対象外 で月間上限設定も同じく可能である。

こちらのサービスに関しては顧客の流入が異なっており、SEOなどでの検索流入がメインではなく、同社株主でもある日経BPの日経電子版、日経ID会員をメイン集客母体としている。その数約930万人という非常に大きな会員数であり、ターゲット層も合致しており、会員数、動画閲覧数は増加傾向にある。

2021年3月期第1四半期決算補足資料

参照元:2021年3月期第1四半期決算補足資料

ITソリューション事業

続いてITソリューション事業に関して、構成としては以下3つのサービスから成り立っている。

List Finder(名刺情報の一元管理、メール配信、Webページ、PDFのアクセス解析)
Sales Doc(営業資料をクラウドで一元管理、顧客に送付した資料の閲覧状況を可視化)
コクリポ(Web上で簡単にセミナーが開催できるウェビナー特化SaaS)

ITソリューション事業に関しては、価格設定の違いはあれど、ビジネスモデルは同様で昨今のSaaS系企業と同様で、主に比較的安価な月額制のサービスである。それぞれ具体的な金額を確認すると、List Finderは、初期費用10万円で月額費用についてはライトプランからススタンダード、プレミアム3段階あり、ライトプラン39,800円からという形である。

Sales Docは、無料トライアルも実施しており、プランとしては同じく初期費用10万円で、月額もライトプラン3万円からプレミアムまでの3段階である。

最後に、このコロナ環境下ということもありこの事業で恐らく今後1番期待ができるのではないかと思われる、コクリポを見ていく。料金体系については以下の図のような形で、セミナーのためのツールなので、参加人数や利用時間に応じて月額料金が変わるプラン設計である。

株式会社コクリポHP

参照元:株式会社コクリポHP

同事業はこの3つのサービスで今期約3億程の売上であるが、先述したアカウント数などから考えるとメインはList Finderでおよそ2億強の売上で、残り2つのサービスで1億弱の売上である。これは各サービスの獲得アカウント数やSales Docが直近リリースしたばかりで無料トライアルなどもまだ実施していること、またコクリポに関しては、まさにこのコロナの影響を受けて業績が急成長しており、今期決算段階ではまだ1,000万ほどの売上であることからも推察される。

2021年3月期第2四半期決算説明資料

参照元:2021年3月期第2四半期決算説明資料

今後の成長戦略

今後の戦略に関して、まずオンラインメディア事業については先ほどご説明した掛け算の最大化が売上の最大化に繋がるため、それぞれのKPI指標を高める必要がある。

具体的には、徹底したA/Bテストやリスティング広告運用、ユーザーレビューの拡大、外部メディアとの連携を強化することで、ユニークユーザー数の向上、またそこからのコンバージョン率の向上に繋げる計画である。このあたりは特別なことはそこまでなく、通常のメディア運営会社もやっていることで、この領域についてはやることをどれだけ効率的に費用対効果高く、実行を徹底できるかどうかにかかっている。Seminar Shelfについても特別な施策の計画は見られず、これまでの取り組みを継続して進めると思われる。

ITソリューション事業について、List Finderに関してはSalesforceとの連携を図ることで既にSalesforceを導入している企業の顧客活用をよりスムーズにすることができ利便性が向上することで新規顧客の獲得に繋げる計画である。

注目のコクリポに関しては、残念ながら同社の決算資料などのには具体的な計画、施策は見られなかったが、個人的にはやはり認知度の向上利便性の向上が重要なのではないかと考えている。

というのも、このウェビナーツールの領域は、それこそ比較されるだけのかなりの数の類似サービスがあり、例えばzoomにはじまり、マイクロソフトのスカイプ、シスコ、V-CUBEなど様々なツールがある。利用者も当然すべてを把握している訳ではないと思うので、利用したと思った時にある程想起してもらえるような認知の獲得がまずは重要ではないと思う。

また、利便性に関しては皆さんも複数のツールを利用されて感じられているかもしれないが、ほかのツールと比べても個人的にはやはりzoomの使い勝手が非常に良いと感じており、このあたりは現代のUXの重要性にも繋がる部分であるため、可能な限りの利便性の追求も重要ではないだろうか。

類似サービスの直近動向

ここでは、同社のメイン事業であるオンラインメディア事業の「ITトレンド」「BIZトレンド」とその類似サービスとの比較をしながら、同領域の直近の動向を探っていきたい。

冒頭にお伝えしたように、同領域においては非常に多くのプレイヤーが存在しており、各社とも扱うジャンルや仕組みが微妙に異なっており、多少なりともその違いを認識することで、イノベーションの強みや同領域のトレンドなどが見えてくると考えている。

特に規模的に近しい「ボクシル」を運営しているスマートキャンプ、直近マネーフォワードに買収されたことでも有名だが、同社が運営しているこの「ボクシル」は2015年にサービスをスタートさせており、これはイノベーションがサービスをスタートさせてから約8年後のことであるが、2018年頃にはSEOでのIT製品キーワードのトラフィックシェアを上回っており、検索順位でも圧倒的な差が生まれている。これは、Googleなどの検索エンジンで、以前までの検索型よりも記事型のメディアのほうが、トラフィックの恩恵を受けやすくなっているという背景があるようだ。

最近では、「WEB幹事」「動画幹事」というサイトを運営しているユーティルという会社があり、同業の「アイミツ」を展開しているユニラボや「比較ビズ」を展開しているワンズマインドという会社を後発ながら追い上げている印象がある。戦略としては、ランチェスター戦略のような形で一点突破のイメージで、一つの領域に特化したサービス展開、サイト運営をしている。このような領域を絞った展開をしている会社は他にも数多くある。

また、IT領域ではないが、「くらそうね」という解体工事の一括見積もりウェブサービスを展開しているクラッソーネという会社もあり、このモデルは非常に展開余地の大きいものだと思う。

総括

今回は、設立から20年が経つIT系企業では老舗のイノベーションを取り上げましたが、個人的にはこの領域、このモデルは今後も切り口を変えればまだまだ拡大の余地はあるのではないか。

更に大きな視点で、このようなオンラインでのリード獲得をメインの目的にしたサービスは、これからもニーズは拡大すると考えている。それは、コロナの影響によりオフィス出社の頻度が少なくなったり、完全に在宅になっている会社があったり、最近ではそれをビジネスチャンスと捉え、オンラインをうまく活用して受電を代行する会社もあったりと、従来のテレアポといった営業手法ではなかなか営業活動が進まなくなっているというお声を結構耳にするからだ。

もちろん、商材によってこのようなオンラインでの手法が合う合わないが当然あると思うが、時代の流れや手法を増やすという意味では今後、自社あるいはアウトソースという形でオンラン上で営業活動を進めるためのアプローチというのは必須と言えるのではないだろうか。

ARAKAKI TAKATO

ARAKAKI TAKATO

小中高は野球漬けの毎日。高校卒業後は教員になることを考え浪人をし大学に進学するも、ご縁があり民間企業に就職。社会人としてはベンチャー企業にて中堅・中小企業の経営者向けコンサル営業。新規開拓営業メインで年約200名の経営者と対峙している。

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