作成日:2017.07.19  /  最終更新日:2021.10.13

自分の時間を売買できる「タイムバンク」が秀逸な4つの理由

MORII RYOJI

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Timebank(タイムバンク)は専門家の時間を10秒単位で売買できるサービス。購入した時間は仕事の相談、ランチ、講演の依頼といった用途で使うことができ、第三者に市場価値で売ることもできる。

時間の販売価格は販売者が決めるのではなく、運営側の審査により価格を決定する仕組みで、SNSの影響力が一定以上でなければ販売できないようになっている。7月18日にティザーサイトとして公開され、秋には正式ローンチする予定のサービス。

各ユーザのメリット

時間を発行するユーザ

自分の隙間時間を、10秒単位で販売することができる。
また株式のように買い手が多ければ多いほど、販売価格が上がる仕組みになっている。

時間を購入するユーザ

時間を購入する側のユーザの動機は、「その人の時間を使って何か依頼したい」「その人の時間を保持して高値で売却したい」「その人の時間を保持し続けて応援したい」の3つだと考えられる。

Timebankが秀逸な4つの理由

「Timebank(タイムバンク)」は自分の時間を30分単位で売買できる「TimeTicket(タイムチケット)」と、個人の価値を模擬株式で売買できる「VALU」の良い所だけを融合したようなサービス。「Timebank」の秀逸な点を要約すると、「TimeTicket」よりマネタイズしやすく、「VALU」より手軽に安全に始められるという点だ。それぞれのサービスの概要と違いを見ていこう。

「TimeTicket」よりマネタイズしやすい

「TimeTicket」は「時間を売買する」という、新しい概念のサービスを2014年7月にローンチし、当時はテレビにも取り上げられるほど注目が集まっていた。仕組みとしては、何かのスキルを持つ人が30分単位で自由に自分の時間を販売できるというサービスで「Timebank」と性質が似ている。

しかし「TimeTicket」は比較的専門性が低いスキル(セミプロ)が多く、個人レッスンや占い、悩み事の相談といったような案件が中心で、CtoC(個人間取引)がメインとなっている。

このスキル売買の領域は「ココナラ」「サイタ」といったプレイヤーが有名だが、少額の売買が多いCtoC領域は、仲介モデルで運営しても手数料が少額なので、マネタイズが難しいという側面がある。

実際に「TimeTicket」は仲介モデルとして運営してるが、2016年11月に株式会社グローバルウェイに譲渡しており、今もマネタイズに苦しんでいる印象がある。ご近所で助け合うサービス「ANYTIMES」も当時様々なメディアで取り上げられたが、最近は全く話しを聞かない。

その点「Timebank」は技術者、経営者、アスリート、歌手などが対象となり、専門性が高いユーザ(プロ)が対象になるため、動く金額も大きくなる可能性が高い。プロをBと呼ぶべきかCと呼ぶべきかわからないが、上述したようなCtoCのユーザ層とは少し異なる。

また「Timebank」と「TimeTicket」の一番大きな違いは、「Timebank」では購入した時間の権利を第三者に売ることができる。これから注目を集める、人気が出るであろう「人」の時間を購入し、価値が上がってから第三者に売るといったことができるので、「人の価値」を株式会社のように、トレードすることができる。このトレードの概念については「VALU」と全く同じ仕組みになっている。

「VALU」より低リスク

「VALU」はビットコインを使って個人の価値を株式会社のようにトレードするサービスで、2017年5月31日にリリースされて以降、瞬く間にユーザ数が増えて今でも非常に注目されている。

「VALU」を簡単に説明すると、応援したい人の模擬株式(VALU)を購入して、その人の株主になり、購入したVALUを使って優待を受けることができる。優待はVALU発行者が自由に設定でき、仕事の相談、SNS拡散、サロンへの入会といった特典が多い。VALUには「売却」という概念があり、第三者に市場価格で売ることができるため、株のように時価総額や初値という指標が存在する。

ただ実際の株式と違い、議決権や配当金はない。価値があると思う人には高値で売れ、価値がないと思う人には売れない「権利付きトレーディングカード」と概念が同じ。価値がないと思う人にとっては、ただの紙切れなのだ。

これだけ聞くと、証券取引法や出資法に違反しそうな気がするが、あくまで実態のない模擬株式の売買なので、規制の対象外になっている。要は何らかの権利を購入しているに過ぎず、出資ではないということだ。この辺りの説明に関しては下記の記事がわかりやすく解説している。

VALUとは?VALUは証券会社?それとも取引所?

「Timebank」では、上述したような「個人の価値を株式会社のようにトレード」する側面も持ち合わせており、一度購入した時間を市場価格で売却できるようになっている。

VALUのコンセプトは「金銭的な理由で諦めざるを得なかった夢や目標を、ファンから支援してもらい実現できる」という点だが、蓋を開けて見れば「インフルエンサーによる信者ビジネス」と揶揄されるほど、グレーな手法で投資を募るインフルエンサーが後を絶たない状態。

運営側はそういった現状を打破すべく、時価総額のランキング表示撤廃や、販売できる株式の制限、売買取引の制限、営業時間の短縮といった対策を行っているが、模擬株式の発行者を「個人」としているので、常にそういったリスクが存在する。

「Timebank」ではどのレベルまで審査をするかわからないが、発行者を「専門家」にフォーカスしているので、無法地帯になる可能性は低いだうろ。「VALU」は仮想通貨と優待のトレードだが、発行者によっては優待がない場合もある。「Timebank」は時間とのトレードなので、明確な対価が存在する。こういった点も違いの一つだ。「VALU」は言ってしまえば、目に見えない通貨で、目に見えない何かを買っているのだ。

「Timebank」は「VALU」と同じく時間の購入に仮想通貨を使うので、2017年4月に改正資金決済法(仮想通貨法)が施行された影響で、本人確認が必須になった。郵送したり取引所に行く必要はないものの、運転免許証やパスポートの写真をアップする必要があるため面倒な作業が必要となる。

追記:「Timebank」は時間を購入するのに日本円を使います。仮想通貨ではありませんでした、すみません…

仮想通貨は価値が下落するリスクがあるため、折角サービス内で利益が出ても、円に換金する際に利益が出ない可能性があるので、リスクを考慮する必要があります。

これまで仮想通貨を円に換金しても課税されない(グレーゾーン)と言われていたが、最近国税庁が「雑所得」として扱うことを正式に発表したため、所得税が適用される。ここ一年でビットコインで決済できるお店が増えてきているので、換金せずに何か欲しい物を買う方が賢明だ。

追記:仮想通貨は商品購入時にも課税対象と見なされるとのことです。詳しくは「仮想通貨の税金の計算方法と確定申告に必要な書類をまとめてみた」を参考にしてください。

様々なトレンドを取り入れている

「Timebank」は、余った時間の売買という「シェアリングエコノミー」、個人が出資して応援する「クラウドファンディング」、個人が簡単に投資できる「ソーシャルレンディング」、オンライン上で仕事の受発注ができる「クラウドソーシング」という、様々なトレンドワードの側面を併せ持っている。

「クラウドファンディング」のメリットは、出資希望額を達成してプロジェクトが実施された際に、何らかの特典を受けることができるという点だが、インセンティブが弱いためか、イマイチ普及してないように感じている。

「Timebank」は応援している人の時間を購入して、その時間を決められた範囲で好きなように使うこともできるし、その人が有名になって時間を買いたいという人が増えた場合、自分が購入した時間を高値で売却することができるので、「クラウドファンディング」よりインセンティブがしっかり用意されている。

「クラウドソーシング」の側面で言えば、税理士や社労士にチャットで相談できる「Bizer」「Gozal」といった、バックオフィス業務のアウトソーシングや、1時間からスポットコンサルを依頼できる「ビザスク」、医師や薬剤師に相談できる「Doctors Me」といったように、専門家のクラウド化が進んでいる。

士業のような専門家が隙間時間を提供し、会社経営者が(顧問契約を結ばずに)スポットで相談するという仕組みは、双方共に物凄く効率的なので、そういった市場も取り込んでいく可能性が十分にある。

またインフルエンサーマーケティングという、特定の分野に影響力のある人を(主にインスタで)商品を宣伝してもらう広告手法が近年注目を集めている。
インフルエンサーという人達を胡散臭く思う方もいるかと思うが、歌手やモデルといった有名人・芸能人も含まれ、既にそういった人達に直接仕事の依頼をできるサービスがある。(インフルエンサーマーケティングについて詳しくはこちらの記事で解説)

ランサーズ・クラウドワークスといったクラウドソーシング系のサービスや、「TimeTicket」「ココナラ」といったスキル売買系のサービスでは、網羅できなかったユーザ層を取り込める可能性があり、市場規模は計り知れない。

勝手な推測だが「Timebank」のビジネスモデルは、時間が購入されて販売者がお金を引き出す際の手数料と、時間を第三者に販売した際の手数料(仲介モデル)だと考えられる。仲介モデルを実現するには、お金のやり取りが直接発生してしまうと仲介手数料を取れないので、時間を購入したお金はサイト運営側が一度管理して、取引が実行された際に支払う「エクスロー型」だと考えられる。

メルカリやクラウドソーシングを代表するように、「エクスロー型」は仲介モデルを実現できるだけでなく、レビューを集めやすく企業のキャッシュフローが良くなるというメリットがある。これに関しては「CtoC型サービスのビジネスモデルをまとめてみた」で詳しく解説している。

戦略とタイミングが上手い

戦略面で関心したのが「影響力の偏差値化」だ。
専門家として登録する際に、一定の影響力がないと登録できない仕組みだが、各種SNSで診断を行うと、影響力のスコアがすぐに表示される仕様になっている。占い結果のように、表示されたスコアの画面のスクショを撮影して、SNSでのシェアという行為が期待できる。

「VALU」のおかげで、模擬株式という仕組みがアーリーアダプター層を中心に広がり、「Timebank」の複雑な仕組みが理解しやすくなっている。また、インフルエンサーに刺さるサービスとなっており、株式のような側面を持つので、フォロワーや読者に積極的に宣伝してくれる行為が期待できる。

質屋アプリ「CASH」のように、SNSでバズれば、広告費をかけなくとも知名度が上がるので、既に一定のシェア数がある「Timebank」はプロモーションに成功していると言えるだろう。

総括

時代背景的にも、副業が解禁されつつあり、個人の影響力というのが重要性を増してきている。「Timebank」を運営するメタップスの佐藤氏は「未来に先回りする思考法」にて、下記のように語っている。

ビジネスの世界には、定められた時刻表はありません。自分の予測にもとづいて、電車がやってくるタイミングを読む必要があります。タイミングがすべてを決めます。だからこそ、未来が読める「だけ」では価値はないのです。その恩恵にあずかるためには、未来に向かう電車が来るタイミングで、必要なリソースを揃えて、駅のホームで待っていなければなりません。

「VALU」がバズり、模擬株式の概念がアーリーアダプター層を中心に認識されたタイミングでの、「Timebank」の公開は、絶好のタイミングだと言えるだろう。

現在はティザーサイトの公開で、今秋に正式ローンチするとのこと。「時間の売買」という概念のサービスは今まであったが、模擬株式の概念を新たに付与した「Timebank」は今後の動向が非常に気になるサービスだ。

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士業に特化したホームページ制作会社オルトベースの代表。24歳の頃に何か面白いWebサービスを開発するため、自分自身の忘備録としてスタートアップのビジネスモデルをまとめ始めたのが「WebFolio」で今年で5年目。何かあれば気軽にFacebookから連絡してください。

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